子どもの英語習得のために「早期のバイリンガル教育」より大事な“感情”とは 専門家が指摘する「子どもの将来のため」に潜むリスク

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「伝えたい」ただそれだけ

 とはいえ、これからの社会で生きていくには、英語のスキルがあった方がいいのも事実。では、わが子に英語を身に付けさせたいと考えたとき、どんなアプローチが有効なのだろうか? アメリカで留学経験があり、海外にたくさんの友人がいるという成田氏はこう話す。

「私自身や娘の経験を話すと、語学というのは『どうしてもこの言葉を話したい』という欲求や必要性に駆られれば、自ずと身に付くものだと思っています。タイミングは人によっても違うし、何歳から始めても遅いということはありません。英語の早期教育よりも私がお勧めするのは、日常生活の中で子どもが自然と『英語を話したい』と思えるようになることです」

 と、実体験を語る。

「以前、わが家にアメリカの友人が長期滞在していたことがありました。その日はどうしても、私が仕事で出かけなければならず、10歳の娘とアメリカ人の友人が二人で過ごさなければならない状況になり、それならば、と『はとバスツアー』に参加させたのです。ところが、お迎えの時間になっても、二人が一向にバスから降りてこない。二人は途中の休憩でバスに乗り遅れてしまったのでした。娘に話を聞くと、浅草で友人がTシャツ選びに夢中になってしまったそう。このままではバスに乗り遅れてしまうと思った娘は、その友人に『早く、バスに乗ろうよ』と伝えたくても、英語が分からないから伝えられなかった。『あのときほど、自分が英語を話せれば……』と思ったことはない、と話していました」

 必要な状況になって、初めて「英語が話せれば……」と痛感したのだという。そして、もう一つ、「親が英語を楽しむ姿を見せるのも効果的」と成田氏。

「私は娘に英語をしゃべらせたいと思ったことは一度もありません。ただ、わが家は自宅に外国人の友人を招く機会が多かったのと、私自身が英語好きで、ミュージカルや海外ドラマをよく観ていました。そんな親の楽しむ姿を見て、自然と娘も英語に興味を持つようになりました。娘が英語力を伸ばすきっかけとなったのが、アメリカのテレビドラマ『glee(グリー)』です。もともと『glee』は私のお気に入りのミュージカルドラマでしたが、たまたま一緒に観た娘もハマり、自ら『英語欲』を満たしていったのです」

大事なのは「コミュニケーション欲」を育むこと

「親が外国の友人と楽しそうに話しているのを見て、『この人たち、何をこんなに楽しそうに話しているのだろう?』と興味を持ち、自分の好きなドラマを観ながら『私もこんな風に英語が話せたらいいな』という思いに駆られる。『英語は国際社会で必要だから話せるようになった方がいい』云々ではなく、『しゃべりたい』『知りたい』という感情が重要だと思うのです。では、このコミュニケーション欲はどこで育まれていくのかというと、それは家庭でしかありません。とりわけ母親が投げかける母語やノンバーバルコミュニケーションを全身で受け止め、『人と話すことは楽しいな』『新しいことを知るのはワクワクするな』と感じるようになる。これが、人間の脳の発達には大事なのです。その時間をおざなりにして、一見して将来に役が立ちそうな習い事を詰め込むのは、本末転倒なのです」

 後編「『もう死にたい』と口にする不登校の少女が母親に心を開いたきっかけはYouTubeだった…小学1年生からタブレット学習が始まる時代の『親の役割』」では、小学校で導入されるタブレットなどを用いたICT教育について、成田氏がその功罪を語る。

取材・文 石渡真由美(ライター)

デイリー新潮編集部

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