異色の舞台「摂」で描かれる舞台美術家・朝倉摂の青春時代…「松本清張」連載小説では挿画も…担当編集者が明かす秘話「“摂っちゃん”“清張さん”と呼び合う仲でした」

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

異色の舞台

 10月28日から、劇団・文学座が、新作舞台「摂」(作:瀬戸口郁、演出:西川信廣)を上演する。生涯に1600本以上もの舞台を手がけた舞台美術家、朝倉摂(1922~2014)の青春時代を中心に描く、異色舞台だ。

「朝倉摂さんの舞台美術は、いまでも多くがそのまま使用されています。そういう人物を演劇で取り上げるとは、面白いところに着眼したなと思いました」

 と、ベテランの演劇ジャーナリストが語る。

「というのも、今回は、朝倉摂さんの長女で、文学座のベテラン俳優・富沢亜古さんが、摂の母を演じるのです。台本を手がけた文学座の俳優・劇作家の瀬戸口郁さんや、演出家の西川信廣さんも、朝倉さんと縁のあったひとです。それだけに、これはまさに文学座でなければできない題材です」

 ちなみに朝倉摂本人を演じるのは、荘田由紀。俳優・鳳蘭の次女である。産休、子育てを終え、ひさびさの復帰舞台だ。

 しかしそもそも、朝倉摂を“舞台化”するなどという企画は、どこから始まったのだろうか。作者の瀬戸口郁さんに聞いた。

「朝倉摂さんは、2014年に逝去されましたが、その後、ご遺族――つまり富沢亜古さんが、物置の奥から、大量の日本画を発見したんです。朝倉さんが若いころに日本画家だったことは有名ですが、作品が残されているとは、誰も知りませんでした。朝倉さんは、過去の話をまったくしない、現在と未来の話しかしない方でした。そのせいもあって、日本画家時代の朝倉さんについて、誰も知らない。いったい、どんな青春時代だったのだろうと、興味を抱くようになりました」

 富沢亜古さんにも、話をうかがった。

「母は、彫刻家として初めて文化勲章を受章した、朝倉文夫の娘でした。いまその邸宅とアトリエは、台東区立朝倉彫塑館として国の有形文化財となっています。そのせいか、わたしには、舞台美術家と同時に、“彫刻家の娘”としての印象が強く、日本画家としてはどうだったのか、よくわかりませんでした。そこで、見つかった日本画を専門家の方に見ていただいたところ、たいへん貴重なものであるという。そこで、2022年に、神奈川県立美術館などで、新発見の日本画を中心にした〈生誕100年朝倉摂展〉を開催していただいたんです」

 その美術展を、さっそく瀬戸口郁さんも観に行った。

「もう、帰りには“芝居にしよう”と、決めていました。発見された日本画には、時代や社会とぶつかりながら、懸命に画を描いた朝倉さんの“生”が強烈に刻印されていて、感動しました。文学座内の企画会議で、必死になってプレゼンしましたよ」

 その結果、文学座での上演が決定したわけだが、実の母親の半生が舞台化されると聞いた、富沢亜古さんはどう感じたのだろうか。

「恥ずかしかったですよ(笑)。まさか、母が自分の劇団で“芝居”になるとは。今回、わたしは祖母を演じるんですが、会ったことはないんです。そもそも母は、ほとんど家におらず、家事などをやるひとでもありませんでした。母親らしい思い出も、まったくありません(笑)。わたし自身、教え子だった彫刻家・佐藤忠良さんの家で育ったようなものでしたから。ですから、まあ、ふつうの芝居と一緒で、いただいた台本と役をこなすだけですよ。ただ、この台本、最後に、わたしが“わたし自身”で登場するんです。いったい、どう“演じ”ればよいのか……(笑)」

 これだけでも、いかに“異色”な舞台であるかが、わかるだろう。

次ページ:挿絵や装幀画でも知られ

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。