ひいきチームのファン対立からパレスチナ紛争まで… 人を争いへと誘う「悲しき性」をシカゴ大教授が解説

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「自分はこう思う。相手もきっと同じだろう」「向こうも自分と同じだけの知識を持っているはずだ」……。シカゴ大学教授のクリストファー・ブラッドマン氏は、こうしたバイアスを「誤った投影」と呼ぶ。今日まで続く様々な争いの背景には、この「誤った投影」があり、時に事態を長引かせ、暴力の連鎖を引き起こす。その根底にあるメカニズムとは――。

(前後編の後編)

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※この記事は、『戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか』(クリストファー・ブラットマン著、神月謙一訳、草思社)の内容をもとに、一部を抜粋/編集してお伝えしています。

「知識の呪い」 人の思考を縛る数々の“バイアス”

「誤った投影」はさまざまな名称で呼ばれているが、すべて1つの問題のバリエーションに過ぎない。そうした名称の1つが「知識の呪い」(知識の豊富な人が、他の人が何を知っているかを気にかけない傾向)である。

 いくつか例を挙げると、

・「後知恵バイアス」(自分がすでに知っている結果を他人は容易に予測できないことに気付かない)

・「フォールス・コンセンサス(偽の合意効果)」(他人も自分と同じようにその難しい判断ができると考える)

・「レンズの問題」(他人も自分と同じようにものを見ていると考える=アメリカの心理学 者ニコラス・エプリーの用語)

 さらに、人は現在の自分の状態を未来に誤って投影することすらある。例えば、その日の天気が、服や、車や、家の購入に影響を与えたり、そのとき何を食べたいかが、購入する食料品を左右したりするのだ。多くの大学の研究室が欧米の大学生を対象に意思決定の実験を行い、この理論を裏付ける証拠を出している。

 例えば、「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」の拍子を取ったときに、第三者にそれ がわかるかどうか(実際はわからないのだが、被験者は第三者にはそれがわかると思う)といった、戦争とは縁遠い実験だ。大学教授の中に、授業が下手な人や本を書くのが苦手な人がいる理由を説明するために、この理論を使う人もいる。そうした人には、素人の視点から問題を見る能力が欠けているというのである。

 しかし、敵対し合うグループに注目した研究は少ない。保守的な人は、他人は自分よ もっと保守的だと考える傾向があり、投票に行く人は、投票に行かない人を、自分よりも投票に行きそうだと考える傾向がある、といったことがわかっている程度である。

 私たちは、他人の行動の理由や動機をモデル化するのも不得意だ。「誤った解釈」とか「帰属バイアス」と呼ばれるものである。誰かが自分に敵対する行動を取ったとき、人はその行動を、人間と状況、どちらのせいにするだろうか?

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