藤田小女姫事件で「濡れ衣を着せられた」 獄中死した日本人受刑者の主張はなぜ退けられたのか

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「彼は一切の発言を拒否した」

 先のホノルル在住のジャーナリストがいう。

「福迫被告は判決が出る直前になって『私は組織の一員で、濡れ衣を着せられた……』なんてことをいってましたけれど、混乱させるなら、まず階審員の頭ですよ。なのに、陪審員がいる前では、結局彼は何も発言しなかった。肝心の評決の前に、チャンスがありながら、彼は一切の発言を拒否したんですから。陪審員制度においては、いかに自分が無実であるかを、時にパフォーマンスを交えてアピールすることが大事なのに、どうして彼はそうしなかったのか」

「一般論として、アメリカでは状況証拠に頼った事実認定が行われる傾向があります」と話すのは、元最高検検事の土本武司筑波大教授(刑事法)である。

「日米の大きな違いは、アメリカでは犯人の自白はおよそ考えられないということがありますね。殺人や放火など犯罪が凶悪であればあるほど、計画的に犯行を決意する。『法を裏切る』という態度を確定させるのですから、犯行を行ってから自分の良心に恥じ、捜査官や裁判官に向かって、己れに不利な供述をすることはあり得ないという考えなんです」

 そういう共通認識のもとに、陪審員制度もある。

「自白がなくても、他にそうと思える証拠があれば、それをもって有罪という認定になるわけです。今回の場合、遺体らしきものを搬出するところがビデオに映っており、なおかつそれが自分であることを認めているわけで、それを見た陪審員は『殺人をしない奴が死体の搬出に関わるわけがない。死体を選び出すような奴だから、殺人もやったんだ』という一般常識が先に立ち、有罪という判断に傾くんです」

 事件への関与を認めた以上、福迫側はほのめかしていた「実態」を明らかにするか、ゲリラ的に陪審員を混乱させる手法をとるしか、有罪評決を逃れる術はなかったわけである。

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 陪審員の有罪評決を経て、判決公判で言い渡された終身刑。第1回【「殺人犯にされてしまう」 藤田小女姫事件の「福迫雷太受刑者」がハワイで獄中死…仮拘束前日の「2時間の肉声」】では、ハワイへの送還前に事件への関与を完全否定した当時のインタビューを再掲している。

デイリー新潮編集部

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