藤田小女姫事件で「濡れ衣を着せられた」 獄中死した日本人受刑者の主張はなぜ退けられたのか

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「ないない」づくしの下での殺人認定

 判決公判を傍聴したハワイ在住の作家、平田敬氏が話す。

「5月に陪審員による有罪評決があり、それに基づき今回、終身刑が言い渡されました。有罪の評決の決め手となったのは、雷太の住むアパート『ディスカバリーベイ』の防犯ビデオですね。23日の判決公判でも、このビデオとそのスチール写真が公開され、私自身もこの目で確かめましたが、エレベーターで藤田吾郎の遺体らしき物を運び出しているのは、本人も認めているように、あれは間違いなく雷太です」

 検察側が提示した物的証拠にはどんなものがあったか。

「雷太のアパートの地下駐車場で発見された彼のソファーです。DNA鑑定の結果、これから吾郎の血液型の血液と、小女姫の部屋から見つかったのと同じ種類の弾丸が見つかりましたが、その程度です。その他は、雷太は吾郎から借金をしていただとか、勝手に吾郎のクレジットカードを使っていたとか、それを小女姫に注意されていたといった状況証拠ばかりです」

 殺害には直接関わっていないという福追側の主張を覆すには、いささか薄弱な証拠といわざるを得ない。自白はもちろんない。凶器となった拳銃も発見されていない。殺害の日の福迫と小女姫親子を結びつけるような目撃証言もない。いわば「ないない」づくしの下での、殺人認定なのである。

「関与はしているが、撃ってはいない」

 弁護側は当然ながら憤りを隠さない。ゲリー・モダファリ弁護士の話だ。

「裁判は極めて酷いもので、そもそも福迫雷太は『主犯』ということで、日本からアメリカに引き渡されたはずなのに、判事は陪審に『共犯』でも有罪とみなすということを説示した。それも評決の出る前日に急にだ。我々は殺人については何一つ認めたわけではない。死体を動かしたことは認めるが、雷太はあくる日まで袋の中身は知らなかった。

 アメリカの法律で共犯というのは、殺人の前やその最中に関与した場合をいって、殺人の後での関与は共犯ではない。我々も雷太が天使であると主張しているわけではない。関与はしているが、撃ってはいないのです」

 細かい話になるが――そして本来なら重要な争点になると思われるが――この法廷では、検察と弁護側の対立点のいくつかが、どうやらシロクロをはっきりさせぬまま判決に至っている。

 その一つは、小女姫さんを殺害した福迫が自分のコンドミニアムに戻った時間だ。エレベーター内の防犯ビデオは「3時53分53秒」に福迫をとらえている。が、ある証言から、犯人は小女姫さん宅に午後3時45分までいたと判断された。福迫はおよそ9分で、約1.5キロメートル離れた小女姫さんのコンドミニアムから戻らなくてはならない。そこに捜査当局には都合のいいことに、ビデオに示された時刻が正刻より12分遅れであることがわかった。ビデオに残った「3時53分」は、つまり「4時5分」というのである。

「ところが、福迫被告が日本に国際電話をかけた利用明細書が出てきて、それによると福迫被告は4時2分から電話をしたことになっている。この矛盾を解決するためか、今度は『ビデオテープの遅れは9分だった』なんていう主張をしてきたわけですよ。つまり福迫被告が自室に戻ったのは4時2分なんだと。その辺りの矛盾を弁護側はガンガン突いていけたはずだし、実際そうすべきだったのに、検察側が『9分の方が正しいです』といったことに、特に何の反応もしなかったんです」(ホノルル在住のジャーナリスト)

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