藤田小女姫事件の公判で「完全否定」を一転 獄中死した日本人受刑者は「真犯人」を知っていたのか

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「単独犯行」説を突き崩す戦略

 その後、日米犯罪人引渡条約に基づいて、福迫がホノルルに移送されたのが8月。陪審員選定を経て、1995年2月下旬から実質的審理に入った。

 検察側の主張は――吾郎君に借金のあった福迫が、母親の小女姫さんから2万ドルをゆすりとろうとして失敗。小女姫さんを彼女の自宅で殺害し、さらに福迫の自室に監禁していた吾郎君を同じく射殺した。その死体を吾郎君の車に乗せ、『パークショア・ホテル』の駐車場に運んで火を付けた――というもの。2万ドルという数字は、殺される直前の小女姫さんが、ホノルルにある日系銀行の旧知の会長に電話で用立てを頼んだ額だった。

 一方、弁護側は実質審理に入ると、それまでの全面否定から一転。福迫が借りていたコンドミニアムのエレベーター内の防犯ビデオに、遺体らしきものを選ぶ福造が映っているのを認めたのだ。そして、福迫は脅されて吾郎君の遺体の処理をやむなく手伝ったが、真犯人はほかにいる、と事件への関与は肯定したのである。はっきり遺体と認識していたわけではないという苦しい論法だが、検察側が主張する「単独犯行」説を突き崩す戦略ではあった。

「被告は真犯人を知っている」

 ところが、5月下旬の陪審員12人による評決は有罪。第1級殺人は退けられたものの、第2級で有罪である。ホノルルのさるジャーナリストが解説してくれる。

「検察側は、被告の他に犯人がいるとは考えられないという戦術を展開してきました。一方の弁護側は『被告は真犯人を知っているが、それについては一切喋れない。それが誰かを調べるのは、検察の仕事ではないか』という戦術に出てきた。証拠と反証で戦った裁判ではなく、隔靴掻痒(かっかそうよう)の感は否めませんでしたね」

「そもそも訴因は第1級、第2級殺人ともに、被告の単独犯ということだったんです。それが評決の前日になって、陪審員に対する判事からの説示に、検察側が『共犯でも有罪になる』という内容を加えるように申請。結局、この主張が容れられて、これが弁護側にいわせれば、有罪評決の決定打になったというわけです」

(注:福迫受刑者はその後に上訴。ハワイ最高裁は福迫受刑者が「銃器で殺害した主犯」か「共犯」かを陪審員が判断したかどうか不明であるとして、検察に対し、「最低15年」のない再判決に同意するなら有罪判決を支持、同意しない場合は有罪判決を取り消して再審という2択を提示した。検察は前者を選択したため、有罪判決は変わらなかった)

「状況証拠が弱く、被害者の吾郎君と被告の間に金銭の貸借関係があったという主張も説得力に欠けていた。ただ一点、被告が遺体の搬送を手伝ったという部分を認めているため、検察としてはそこに賭けたのでしょう。検察の手法もいかにも、『ちょっとなあ』という感じですが、一応は州法で認められているんだから、それを阻止できなかった弁護側にも非があります」

 ***

 陪審員の有罪評決を経て、8月の判決公判へ。ここでの福迫受刑者は、被告が本来取るべき行動を取らなかったという。第3回【藤田小女姫事件で「濡れ衣を着せられた」 獄中死した日本人受刑者の主張はなぜ退けられたのか】では、判決公判を傍聴した人物や識者の見解を伝える。

デイリー新潮編集部

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