ギャル、パラパラで岩盤支持層「50代以上の女性」がソッポ…朝ドラ「おむすび」が“低迷”している理由

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視聴率ワーストを更新するペース

 朝ドラことNHK連続テレビ小説「おむすび」が視聴率面で大苦戦している。その第一の理由は朝ドラの岩盤支持層である50代以上の女性(F3層)の離反。通常、朝ドラのF3層の個人視聴率は20%を超え、前作「虎に翼」は23%前後あったが、「おむすび」は20%を割り込んでいる。ほかの層にも支持が広まっていない。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 朝ドラの放送開始時間が午前8時に繰り上がった「ゲゲゲの女房」(2010年度上期)以降に放送された28作品の中で、視聴率ワーストは「ちむどんどん」(2022年度上期)。その全回平均の個人視聴率は8.9%だった(世帯視聴率同15.8%、全て関東地区、ビデオリサーチ調べ)

 一方、「おむすび」の第12回までの平均値は個人視聴率が8.47%(世帯視聴率15.0%)。序盤とはいえ、「ちむどんどん」のワースト記録を更新しかねないペースである。ちなみに「虎に翼」の第12回までの平均値は個人視聴率が9.06%(世帯視聴率16.2%)だった。

 NHKが視聴率に拘らないというのは俗説である。「ドラマ10」(火曜午後10時)や単発ドラマは評価や質を優先するが、大衆受けを狙う朝ドラと大河ドラマは視聴率を大いに気にする。

 これは現場の制作者も認め、歴代の幹部も公言している。朝ドラと大河はNHKのイメージをつくり、受信料徴収の説得材料にもなるから、一定の高視聴率の獲得が義務付けられている。

「おむすび」の制作陣も放送前には高視聴率獲得の自信があったはずだが、どうして躓いてしまったのか。第一に朝ドラの岩盤支持層である50代以上の女性(F3層)が十分に取り込めていないからである。

 放送時間帯の特性上、朝ドラの中核視聴者はF3層である。F3層の朝ドラの個人視聴率はほぼ常時、20%以上を超えている。

 以下、50代以上の男性(M3層)の個人視聴率が12%前後、男性20~34歳(M1層)が同1%前後、女性20~34歳(F1層)も同1%前後、男女13~19歳(T層)が同1~2%といった具合である。出勤準備で忙しい働き盛り世代の個人視聴率は低く、登校前で時間のあるT層は比較的高い。

「おむすび」の場合、F3層の個人視聴率が20%を割ってしまっている。民放制作スタッフによると、10月11日放送に放送された第10回のF3層の個人視聴率は18.3%。この日の全体の個人視聴率は8.3%(世帯視聴率14.7%)と低調だったが、それはF3層の数字が伸びなかったからだ。

「スポーツの日」で祝日だった10月14日の第11回は、F3層の数字が15.7%とさらに落ち、全体の個人視聴率も7.2%にまで下がった(世帯視聴率12.6%)。放送開始から最低を記録してしまった。

「虎に翼」の場合、F3層の個人視聴率が20%を割ったことがない。9月13日放送の第120回は同22.9%、9月20日放送の第125回が同21.9%、9月27日放送の最終回が同23.2%。ヒット作らしい高視聴率だった。

10代の視聴率も伸びず

「おむすび」の場合、ヒロイン・米田結役の橋本環奈(25)に対する若者からの人気に期待したいところだろうが、これも傍からの予想どおりになっていない。10月11日放送に放送された第10回の男女13~19歳(T層)の個人視聴率は1.1%、祝日だった同14日の第11回もT層は1.4%にとどまった。

 ちなみに「虎に翼」の場合、9月13日放送の第120回はT層が2.6%、同20日放送の第125回のT層は2.1%だった。

 なぜ、「おむすび」はF3層を取りこぼし、T層も伸びないのか。まず思い浮かぶのは結をギャルの仲間にして、パラパラを踊らせたことの是非だろう。

 ギャルとパラパラという発想は面白い。ただ、過去に流行したのは一部の女性だけで、F3層に広く受け入れられるのは難しいのではないか。またT層には異次元の話だろう。

 そもそも結とは時代が合っていない。結は平成元年(1989年)生まれ。現在の設定は2004年。ユーロビートなどに合わせて踊るパラパラが最初にブームになったのは1980年代半ばから1990年ごろであり、以降は2001年ごろまで断続的に流行が続いた。しかし、その後はブームが下火になっていた。

 それはよしとしようが、物語のほかの要素の描き方が平板に思えてならない。このため、結の祖父・米田永吉(松平健)と祖母・佳代(宮崎美子)、父親・聖人(北村有起哉)と母親・愛子(麻生久美子)が営む「農業」、結が所属し、憧れの先輩・風見亮介(松本怜生)がいる糸島東高の「書道部」、結の幼なじみの同級生・古賀陽太(菅生新樹)と知り合いの福岡西高生・四ツ木翔也(佐野勇斗)が打ち込む「野球」の3つが、興味を強く持たせない。

 人間関係の描き方も平板で惜しい気がする。たとえば第12回である。午後7時の門限に遅れそうだった結に対し、幼なじみの陽太が駅前で声を掛けた。

「オレにまかせい」

 陽太は結の家に押しかけ、土下座をしながら聖人に訴えた。

「すいません。門限破ったの、全部オレのせいです。おじさん、オレたち付き合っているんです」

 結が好きな陽太の願望が入ったウソだ。それでも聖人は結を溺愛しているから、一波乱あると思ったら、このエピソードは静かに幕を閉じた。

 第10回ももっと掘り下げてほしかった。ハギャレン(博多ギャル連合)で女王然としている真島瑠梨(みりちゃむ)が、深夜徘徊で福岡・天神の交番に補導された。父親は中国に出張中で、母親も仕事で東京に行っているから、身元引受人がいない。

 結局、愛子が瑠梨をもらい下げる。一方で瑠梨の家庭は崩壊していることが分かった。ここで知りたかったのはこの日の深夜徘徊の引き金は何だったのかということと、どうして両親は瑠梨への関心を失ってしまったのかということ。瑠梨の憂鬱の奥底である。

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