「大物にこんなCMやらせていいの…?」 今なら20億円は下らない「外国人タレント」起用しまくり時代が懐かしい(中川淳一郎)

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 MLB史上最多安打(4256本)を記録したピート・ローズが83歳で亡くなりました。引退後は野球賭博でMLBから永久追放されたり、イチローが日米通算安打4367でローズを超えたら「オレのマイナーリーグ時代の記録も足せよ」なんてブチブチ言う。

 すっかり日本人にとってはイヤ~なヤツに成り下がりましたが、私にとってローズといえば、1982年、東洋水産「激めん」のCMキャラです。内容はスイッチヒッターのローズが左右の打席で快音を鳴り響かせ、そこに「激めんカツカレーラーメン」「激めんわんたんめん」が登場。ローズが両方を手に持ち、満面の笑みで「激めん、コイツはいい!」とダミ声で言う。2種類だから両打ちのローズを起用したのかな……。

 このように80年代~90年代、金持ちだった日本はCMに外タレを起用する余裕がありました。今考えるとよくこんな一流どころが出たな……と思います。私は97年に広告会社に入ったのですが、当時言われていたのは、「日本人のギャラ最高額は1億円。外国人は3億円~」。仰天したものの、今なら20億円でしょうね。

 スティーブン・セガールが登場する日清食品の生タイプカップうどん「ごんぶと」も印象深い。セガールは小料理屋の店主で、客の若尾文子から「ごんぶとさん」と書かれた紙をもらい、すする音をさせながらごんぶとを食べる。宮沢りえとの共演で名高い、アーノルド・シュワルツェネッガーの「アリナミンV」は意外なコミカル演技がバカウケで「シュワちゃん」と呼ばれるようになりました。

 そして「この大物にコレをやらせるか!」と思ったのが、2000年代初頭のカップヌードルのCM。当時世界最高のMFジネディーヌ・ジダンがヤカンをドリブルし、最後はヘディングでゴールを決めるというもの。「お湯Ready?」が決めコピーです。それにしても頭痛そう! 別バージョンではロッカールームで落ち込むジダン。W杯のチケットが手に入らない、と日本語で嘆くのですが、足踏みを開始。「ジダンがじだんだ」とテロップが出て、カップヌードルを買えば3000人にチケットが当たる告知がされる。費用対効果あったんか? ただクリエーターがジダンに会いたかっただけじゃないの?

 同様の仕事に私もかかわりました。某飲料ですが、CMキャラはブルース・ウィリス! ウィリスが新聞を読んでいて「また合併かい、ところでこんな合併はどうだ?」と某飲料のミックス版を紹介する。正直、ウィリスの無駄遣いだと若手社員ながら思ったのですが、他の社員はイケイケドンドン。

 外国人はジョークを言わせるのにも非常に使い勝手が良かったのでは。湿布のCMに出た阪急ブレーブスのブーマーはドハマり。彼は死球をくらったら相手投手の元にダッシュして殴りかかるような選手です。それをそのままCMの冒頭で演出に使う。ピッチャーは殴られると思ったらブーマーは球場の外に出て薬局へ。「パスタイム、ください」と言い、受け取ったら「ハンキュウベリーマッチ」。これ、小学校では大人気でした。

 あの余裕のある日々よ帰って来てくれー。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年10月17日号掲載

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