「将棋鼻出しマスク訴訟」で「日浦八段」が敗訴 提訴前、独占インタビューで語っていた怒り「理事会は私を“反マスクの陰謀論者”のように扱った」

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「これから規定に盛り込むつもりだ」

 日浦氏が当時を振り返る。

「対局が始まってすぐ、相手から“マスクを鼻まで上げてもらえますか?”との申し入れがあったのですが、私は“そんなルールはないです”と言って断りました。すると相手は対局室から出て行き、その後、立会人が来て再び“マスクを鼻まで上げるよう”に要請しましたが、私は“ルールにない”との理由でやはり拒否。次に立会人は別のフロアにある事務局まで来るよう言うので行くと、そこに連盟理事の一人がいた。その理事が私に“鼻を出しているのはマスクをしていないのと同じことだ。われわれ理事会はこれから『マスクで鼻までふさぐ』といった規定も盛り込むつもりだ”と言ったのです」

 それでも拒否した日浦氏に対し、対局開始から48分後、反則負けの裁定が下されたという。

「この理事の言葉からも分かるとおり、そもそも同規定は細かな部分は何も明文化しておらず、きちんとしたガイドラインの体をなしていません。色々な解釈の余地が入り込むルールでは恣意的な運用が行われる可能性があり、棋士に厳罰を科す規定としては大いに問題です。私はこの時の反則負けを“このまま受け入れるような形で終わりにするのは間違っている”と強く感じたので、その後の対局でも“鼻出しマスク”で臨みました」(日浦氏)

 その結果、2月1日の棋王戦予選、同7日の名人戦順位戦でも反則負けとなり、今回の日浦氏の懲戒処分へと繋がった。

強権発動か、正当な裁きか

「私がなぜ“鼻出しマスク”で対局に臨むかといえば、マスクに感染予防効果はないと考えているためです。もともと私は科学的なことを調べるのが好きで、コロナ禍が始まってから関連する文献や論文などを読み込んできました。そのうち、エアロゾル感染するコロナに対してマスクの感染予防効果がどれほどあるかについて懐疑的な研究結果を目にするようになった。あるいは長時間のマスク着用が酸素欠乏症を招き、脳に良くない影響を与える可能性を指摘した論文や記事なども読みました。要はマスク着用のメリット・デメリットについて、自分なりに勉強して科学的な根拠を調べたのです」(日浦氏)

 日浦氏は自分が収集した論文などの資料を連盟理事会に持って行き、規定の妥当性について話し合おうとしたこともあったというが、相手にされなかったという。

「理事会側は私を“反マスクの陰謀論者”のように扱って、まともな議論は叶いませんでした。将棋の対局時間は長ければ12時間にも及び、その間、棋士はずっとマスクの着用を義務付けられる。これは私にはかなりの苦痛で、実際にマスクを着け続けることで集中力も途切れやすくなりました。だからこそ科学的根拠の薄弱な規定であれば、もう少し柔軟な運用や改定を行うべき。でも理事会側は私の問いに何ら答えず、懲戒処分という強権を発動して、この問題に終止符を打とうとした――と私の目には映るのです」(日浦氏)

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 このインタビュー後の23年6月、日浦氏は日本将棋連盟に約380万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたが、24年10月18日、東京地裁は日浦氏の請求を退ける判決を言い渡した。

デイリー新潮編集部

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