不眠不休で帰ってきても、足を延ばせる風呂がない…令和の若者がそっぽを向く自衛隊官舎“老朽化” 「石破総理」も認識、しかし建て替えが進まない理由
石破茂総理は就任直後に自衛官の処遇改善に意欲を示し、月内に初の関係閣僚会議を行うと発言した。総理は総裁選の公約にも自衛隊員の賃金を含めた待遇の改善、特に生活・職場環境の改善に言及していた。自衛隊の人材不足は以前から“静かな有事”として認識されていた。日本各地で起こる災害や台湾有事が危惧される中、自衛隊の重要性は高まってきている。
年初に発生した能登半島地震では、お正月休みを返上して自衛隊は凍てつく寒さの能登半島で被災者を救うために、食料や燃料、医薬品等を徒歩搬送した。その災害派遣が終わったつかの間、9月に再び能登大雨で仮設住宅も浸水した。自衛隊員達は休みなく災害から私たち国民を救うために日夜、奮闘している。
人材確保は急務だと政府も認識している。令和5年度に策定された防衛3文書の1つ、防衛整備計画の中に人的基盤の強化が盛り込まれた。生活・勤務環境の改善・処遇の向上という項目で、自衛隊の隊舎・宿舎等の老朽化対策の予算はついた。しかし、不眠不休で被災者のために身を粉にして働いた自衛隊員達が帰ってくる生活の場は、整備が行き届いているとは言い難い。令和9年度までに全駐屯地の勤務地を対象に生活環境が改善される予定とされるが、その改修や建て替えでは遅すぎる。
少しずつ官舎の修繕や生活環境の改善が進んでいるのは間違いない。しかし未だに改善が進まず不便な環境での生活を強いられている隊員達がいる。以下、自衛隊員の生活環境についてレポートする。
【国防ジャーナリスト/小笠原理恵】
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【写真】能登大地震、東日本大震災…被災地で救助活動に当たる自衛隊
バランス釜の浴室に洗濯機の理由
まずは、ある東北地方の官舎についての例である。
「この官舎の建て替えは去年に終わるはずが延びに延びていつ始まるのかも見通せません」
と、ここに住む自衛隊員は言う。この隊員は偶然にも東北地方のその官舎の近くの出身であった。
「この公務員宿舎は私が子供の頃からありました。そんなところに自分がとりあえずでも住むとは夢にも思わず。隊長や幹部が入る官舎はもう少しキレイだとは聞きますが…」
その子供の頃からあったという老朽化した住宅では昭和に活躍したバランス釜(通称カチカチ)という風呂の湯沸かし装置が現存している。釜の幅に場所を取られているために、風呂桶はとても狭い。大人の男性は足を折りたたみ、小さくならないと湯船には浸かれない。
しかも、風呂場の洗い場に洗濯機が鎮座する異様な光景に驚かされる。洗い場に洗濯機があるために、座って体を洗うことも難しいだろう(写真〈1〉)。
なぜ、お風呂の洗い場に洗濯機があるのか? 洗濯機を置くための給排水と電源のある場所が他にないからだ。
洗濯機用の排水口がこの官舎にはない。洗面台とトイレ、台所のシンクと風呂場のどこで洗濯後の排水を流すかを検討して、風呂場を選ぶしかなかったのだ。洗面台をどけて洗濯機の設置工事は可能だが、退去時に元の状態に戻すことが義務付けられている。その費用も自己負担しなければならないため、隊員は仕方なく我慢して生活をしているのだ。
だが、お風呂の洗い場に洗濯機を置くと漏電のリスクがある。特に浴室内の洗濯機を使用しながらの入浴は、感電事故にも繋がりかねない。「事に臨んでは危険を顧みず」と自衛隊員は宣誓をするが、こんなところで、危険を顧みずに生活する必要はまったくない。
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