「松葉ガニも岩ガキも絶品」 石破総理「鳥取自慢」を語る
石破茂新総理がもっとも力を入れるべき政策として繰り返しているのが「地方創生」である。これは今回の総裁選用のものではなく、長年、主張してきたもの。「地方創生担当大臣を務めたからだ」といった解説をするコメンテイターや政治記者もいるのだが、これは少し正確さに欠けるかもしれない。幼少期を鳥取で過ごした石破氏にとって、「地方」は常に正面から向き合うテーマだったのだ。
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私の「お国自慢」
地方の潜在力を活かすべきだ、というお話を何度かしてきました。そこで今回は難しい話は抜きにして、私が中学生まで住んでいた、そして今も毎週のように帰っている地元、鳥取県の魅力についてお話ししてみたいと思います。
簡単にいえば「お国自慢」ということになるのですが、たまにはこういう気楽な話もお許しいただければ幸いです。
鳥取県の良いところって何ですか。
そんなふうに聞かれた場合、真っ先に「景色の良さ」を挙げます。
山陰海岸国立公園の海の美しさは素晴らしいものがあり、沖縄にも匹敵します。アピール下手なので、「鳥取の海が綺麗」というイメージを持っていらっしゃらない方も多いかもしれません。しかし透明度では全国でもベスト3に入るといわれるほどなのです。その美しさは私の少年時代から変わっていません。
その国立公園にあるのが、有名な鳥取砂丘です。家から自転車で25分ほどの距離ということもあり、中学生の私は、ほぼ毎日、砂丘を見に行っていました。連休の時期や夏休みの時には、多くの人で賑わうのですが、それ以外の時はあまり人もいません。何ともいえない寂寥感のある風景が広がっています。
その寂寞たる風景をただ30分ほど眺めて家に帰る。そんな日々を送っていました。中学に入ると、国立大学の付属ということで近所の友達がいなくなったことも関係していたのかもしれません。暗い中学生だな、と言われそうですが、この光景は本当にお薦めです。
友人には素性を隠していた
高校以降は東京で暮らすことになりました。しかし、私の「鳥取愛」は極めて強かったので、同級生たちに「とにかくいいところなんだから来てほしい」とアピールをしまくっていました。景色はいいし、食べ物は良いし、素晴らしいところだよ、と力説していたわけです。このあたり、今と同じようなところがあります。
アピールが奏功したか、結構多くの同級生が実際に鳥取に遊びに来てくれました。夜行列車で東京を夜8時に出れば、鳥取には朝7時には着いたと記憶しています。
まだ「裏日本」などという差別的な言葉も若干残っている時代ではあったものの、同級生たちも素直に喜んでくれていたように思います。
これは地方がとても元気な時代だったことも関係しているのでしょう。鳥取でも駅前にはホテルニューオータニや大丸がオープンし、実に賑わっていました。
当時の私の実家は、鳥取県知事公邸でした。ただ、友人たちには父が県知事であることは知らせていなかったので、みな着いてから知って驚いていたようです。名前で素性を簡単に検索する、なんてことが不可能だった時代だということです。
自然や景観以外に誇るべきは、やはり食べ物でしょう。こちらも今一つまだPRが十分ではない気もしますが、冬の松葉ガニ、夏の岩ガキなどは絶品です。これを日本酒や白ワインと一緒に味わうのは至福の体験といえます。昔はそんなにカニも高くなかったので、食卓に出ても「またカニか」などと思っていたんですから贅沢な話です。
こうした有名なものではなくて、ノドグロ、カレイ、ヒラメ、キス、アジ等々、その他の魚介類もとても新鮮で質の高いものがたくさんあります。素材が良いので、あまり加工をしなくてもものすごくおいしく味わえます。
残念ながら他の多くの自治体と同様に、鳥取県の人口も減少傾向にあります。1年で約5000人ずつ減っています。ただ一方で、移住してくださる方も多く、このところは毎年2000人ほどいらっしゃいます。移住者の絶対数は多いのです。それも20代、30代が半数以上を占めています。
「お国自慢」のすすめ
ここからは「ぜひ鳥取県に住んでみてください」という気持ちで書いてみます。
20代、30代の方で田舎暮らしに憧れつつも、地方で生きていけるのかご心配の方も多いかと思います。しかし有効求人倍率はコロナ禍においても1.5を超えており、この数年を見ても一貫して全国平均を上回っています。現在、地方のほうがおおむね有効求人倍率は高い傾向にあります。
もちろん、賃金は都市部のほうが高いのですが、住居費、光熱費等々を差し引いていって実際に手元に残るお金、使えるお金という観点で見た場合、鳥取県は全国で8位です。
全国を遊説などで回った実感として、この8位というのはそんなに意外な順位ではありません。鳥取に限らず、地方の方の顔を拝見していると、地方の持つ豊かさを感じることは少なくないのです。
こうした実感とは裏腹に、中央のメディアではよく、地方が廃れていることが伝えられます。シャッター商店街の光景が映され、人がどんどんいなくなっていく、お先真っ暗、という感じで番組や記事が作られる。
もちろんそういう面があることは否定しません。私が子供の頃、とても賑わっていたまちの商店街もシャッターを閉めているところが多くあります。かつての賑わいが嘘のようです。ただ、これは郊外に大きな商業施設ができたことなどが関係していて、人が集まる場所が移ってしまったから、ということも原因としてあります。もちろん、商店街もまた活気ある場所に戻ってほしいとは思いますが、この姿がそのまま地方の実体のすべてを反映しているとは思わないでいただきたいと思います。
もう少し「勧誘」を続けさせていただければ、人口当たりの小児科医師数は全国で3位(1位は徳島県、2位は東京)、産婦人科医師数は1位です。
治安の良さも抜群で、殺人事件が年に3~4件という年が続いています。もちろん人口が少ないから、というのも理由でしょうが、それだけではないとも思っています。ほかの自治体では、人口のわりに事件の多いところもあるからです。
通勤時間の短さも特筆すべき点でしょう。平均が20分以下で、大都市圏の半分以下です。当然、その分だけ自由になる時間が多くなります。これから人生100年といわれる時代になりますが、それでも手元にどれだけ自由になる時間が残るかはとても大切なことではないでしょうか。
最初から最後まで、お国自慢をしてみました。もちろん、これは鳥取県出身者の意見にすぎず、多分に身びいきが含まれているのでしょう。読者の皆さんにはそれぞれの誇るべき地元があるかと思います。そうした気持ちを持つ方がどんどん増えていき、それぞれの地方が元気になっていくことを心から願っています。
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地方創生に対して冷ややかな見方を口にする人は少なくない。都市生活者にとっては、ピンとこない面もあるのだろう。ここでも触れている中央のメディアの中には、地方を下に見ているような伝え方も珍しくない。「東京にはこんなに楽しいことがある」という情報がテレビでは大量に流される。多くの場合、地方は「たまに行くところ」であって、住むところではないように扱われる。
しかし、石破総理に限らず、地方での生活を経験し、さらにその栄枯盛衰を見てきた者にとって、地方創生はまさに切実なテーマ。こうした認識のギャップを埋めるのもまた総理の仕事なのかもしれない。