早くも朝ドラ視聴率「一ケタ突入」の危険も…「おむすび」のストーリーに視聴者が共感できないのはなぜか

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震災の回顧でV字回復か

 一方でこれからのストーリーが大きくなっていくのは間違いない。結が栄養士となり、食の知識と卓越したコミュニケーション能力で人と人を結び付ける。

 また、平成元年(1989年) 生まれの結が中心となって、平成期という時代の全体像を表すという。身近過ぎて逆に見えにくい時代だから、成功すれば面白い試みになるはずだ。

 平成期には大災害と大事件が多かった。その中の1つで現代人にとって忘れられない大災害が阪神・淡路大震災(1995年)である。結の一家は震災を機に神戸市から福岡県糸島に引っ越してきたから、震災は当然描かれる。

 震災から30年。震災時に6歳だった結は今、何を思うのか。また、天職と考えていた理容の仕事から離れざるを得なかった聖人の胸中はいかなるものなのか。興味深い。

 登場人物が偉人ではなく、普通の人であるからこそ描ける世界もある。ただし、どこまで視聴者が待ってくれるかという問題はある。そう長くは待ってくれないのではないか。

 SNSを眺めると、「『おむすび』の緩さこそ昔ながらの本来の朝ドラ」といった考え方が存在するようだが、それは誤解にほかならない。

 そもそも朝ドラは全ての作品が唯一無二。本来の形なんて、ない。毎回、制作統括も脚本家も主演も違うのだから、当たり前だ。振り返ると分かるが、過去に似た作品なんて1本もない。

「朝ドラらしい作品」なるものも存在しない。そんなことをNHKが言った試しはない。このところ、「虎に翼」が異端だったとする向きがあるが、それを言い始めたらアイドル文化を描いた「あまちゃん」(2013年度 前期)もヒロインが3人いた「カムカムエヴリバディ」(2021年度後期)も異端になってしまうのである。それぞれが個性を競ってはいるが、異端は存在しない。

 また、往年の朝ドラも決して緩くなかった。山田太一さんの脚本による「藍より青く」(1972年度)や石森史郎さんの「水色の時」(1975年度)、「おしん」。みな先鋭的でメッセージ性を内在していた。「おむすび」の序盤の緩さも先祖返りしたわけではなく、単なる個性と捉えるべきだ。

 脚本の根本ノンジ氏はNHK「正直不動産」(2022年)などほのぼの系などの作品を得意とする。制作統括の管原浩氏も代表作に「これは経費で落ちません!」(2019年)、「いいね!光源氏くん」(2020年)があり、やはりほのぼの系を得手とする人。

「おむすび」の緩さも狙ったうえでの味わいなのだろう。

高堀冬彦(たかほり.ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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