石破総理が避けて通れない日本経済「2つの難問」とは? 気鋭のエコノミストが説く新政権の「経済政策」注目ポイント

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脱原発を進めるドイツの現在

 エネルギー問題はどうか。

「海外の企業を日本に呼び込むとして、その企業にとって日本のエネルギー政策が不透明ではビジネスを展開するのは難しい。実際、データセンターなどのプロジェクトが進展していく中で、その電力需要にどう応えるか、は喫緊の課題です。石破総理は総裁選に先駆けて『原発をゼロに近づける努力は最大限する』と語り、原発とは距離のある発言をしていました。原発は活用しつつも、代替エネルギーを模索するという考えなのだと感じる一方、脱原発を標榜したドイツでは、企業におけるエネルギーコストが上昇し、自動車など製造業が海外に移転する“空洞化”が起きつつあります。今後、原子力を含めたエネルギー政策でどういうプランが出てくるのか、は注目しています」

 実は唐鎌氏、石破総理が「デフレ脱却を実現するために3年を集中対応期間とする」と語ったことについて、以下の様に考えているという。

「日本ではこの『デフレ』という言葉の定義が曖昧なんです。例えば、政府と中央銀行からすれば、デフレとは消費者物価指数が持続的にマイナスになることを指します。ただ、企業にとっては『円高・株安』を指すでしょうし、家計から見ると『持続的に賃金が上がらない』状態がデフレと言えます。これらの現象を総じて『景気が悪い』と言うわけですが、その基準は当事者によって異なるのです。いま国民に『いまデフレですか?』と聞けば、これだけ物価高なのですから多くの人は『インフレだ』と答えるでしょう。ですから、いま国民が求めているのでは『デフレ脱却』ではなく『インフレ脱却』なのではないでしょうか。今後、インフレが進んでいくのであれば、物価高を招き、さらに国民の生活が 苦しくなっていくことになる。利上げをけん制すれば、円安に振れるので同様に物価が上がる。分配を重視しているはずの石破政権ですからデフレの定義について明確にした上で、国民が望むのは恐らくデフレ脱却ではなくインフレ脱却であるという問題意識を打ち出していけば良いと思います」

金融所得課税の行く末は

 注目される金融所得課税の議論はどうなるか。

「岸田政権のようにこのまま金融所得課税の議論が停滞するのかはまだ見通せません。ただ、新NISAの推進や『資産運用立国』を政府が強く押し出したばかりのタイミングで、いま金融所得課税の議論を喚起すると、政策間の整合性で誤解を招くことになりかねません。やるのであれば、制度が軌道にのって、2、3年経ってから議論するのが良いのではないでしょうか」

唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)
慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会などを経て現職。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』『「強い円」はどこへ行ったのか』、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

デイリー新潮編集部

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