セブンの独り負けは「弁当の上げ底」だけが原因じゃない 9年前から王者凋落の兆しはあった

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日本のコンビニは世界最高峰の小売業

 ちなみに、ネットスーパー事業は、撤退にともなう特別損失458億7700万円を来年2月に計上予定だそうである。神奈川県横浜市にある配送拠点も、稼働から2年も経たずに閉鎖する。

 その拠点は都筑区に位置するが、我が家は隣接する港北区にある。恥ずかしながら、そのことを家族の誰も知らなかった。この機会に遅ればせながら登録し頼んでみようと思ったものの、登録にはnanaco番号が必要とのことで、すぐに分からず断念した。このあたりのインターフェースの使いにくさも、ユーザーが広がらなかった一因であることは想像に難くない。

 アメリカのコンビニ事業では、不採算店を444店舗閉鎖させる計画も今回発表された。コンビニ事業に一本化したセブン-イレブン・コーポレーションの事業領域は、海外を含むものとなりそうだが、約6万1000店舗のグローバル店の立て直しも成長戦略としては必須となるだろう。

 こうした状況で、主力のコンビニ事業の中長期的な成長戦略を描けるのはセブン&アイHDなのか? アリマンタシォン・クシュタールなのか? 既存の株主に対してきっちりと説明できるかが今後の買収の行方を方向づけるポイントとなりそうだ。世界最高峰の小売業である日本のコンビニの王者セブンを、アリマンタシォン・クシュタールはどう変えていこうとしているのかは、株主のみならず我々日本の消費者も気になるところだ。

 また、忘れてはならないのが、セブンの収益の柱はフランチャイズだということ。国内店舗の98%はフランチャイズ店舗である。

 今回の事業の切り分けによって、セブンで出した利益をコンビニの事業の成長に活用できることにもなる。フランチャイズオーナーの立場からみれば今回の措置は大歓迎ではないだろうか。

 買収騒動がどういう形で決着するにせよ、セブンHDが利益を出し続けるために大事なのは、こうしたフランチャイズオーナーとの関係をウィンウィンにすることである。

とはいえ、新しい芽も出始めている

 とはいえ、ヒットがないわけではない。近年では、店内の揚げたてカレーパンの年間販売数が7700万個となり、ギネスに登録された。直近でも、店内で揚げたドーナツがエリアを拡大しながら好調、また健康を意識した層へスムージーも浸透するなど、新しい芽も出始めている。

 こうした施策によるセブンの売上アップが、今の混迷するセブンHDにとっては一番の処方箋となるはずだ。

 また、“独り負け”しているといっても、1店舗あたりの1日の売上(平均日販)は70万円前後と、ファミマ、ローソンの55万円前後に大きな差をつけている。日本国民に圧倒的に支持されている現実はあるのだ。

 セブンは外為法により、外資による出資を規制する企業の対象となっている。セブンを含む大手コンビニは、今や日本国民にとっては食生活インフラとなっていて、災害時には生活インフラともなる。

 今回の買収提案は、こうしたインフラとなったコンビニを国全体で議論する、よいキッカケになっているのかもしれない。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部

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