なぜか衆院選の争点にならない「物価高」 減税や給付ではなにも解決しない

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利上げはなぜ嫌われるのか

 ところが、利上げは嫌われる。大量の国債をかかえた日銀が自縄自縛の状態にあることは措いても、あまり歓迎されない傾向にある。企業の利払い負担がふえるうえに、株価にもマイナスの影響が出やすいからである。 だから、本音では利上げが必要だと考えている石破総理も、10月2日に日銀の植田和男総裁と面会後、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言したのだろう。

 石破総理は機を見ているのだと思うが、テレビのワイドショーなどでも、利上げは株安をもたらし、日本経済にマイナスだと説明される傾向にある。しかし、株価が下がるから利上げをしないというのは、あまりにも大企業や投資家の側に寄った判断ではないだろうか。

 先に紹介した朝日新聞の記事の下には、「上半期の倒産 10年ぶり5,000件超」という記事もあった。東京商工リサーチが発表した今年度上半期の企業倒産件数が、前年同期とくらべて17.83%増え、5,095件になったという内容だった。低金利は中堅や中小企業が、運転資金を調達するうえでも好都合だと思われている。だが、現実には、中堅や中小企業は、もとをたどれば低金利によって引き起こされた資材価格や人件費の高騰を価格に転嫁できず、経営不振に陥るケースが多いのだ。

 一方、このところ円安によって過去最高益を続けてきた大企業は、利払い負担の増加に耐える体力があるはずである。

円の価値が下がることの意味

 すでに日銀は、きわめて緩やかにではあるが緩和政策からの転換を打ち出したため、一時にくらべると円安も若干修正され、輸入物価はわずかばかりではあるが下がりつつある。

 いま問われているのは、この流れを推し進められるかどうかに尽きる。物価を抑制して実質賃金を上昇させ、個人消費を伸ばすためには、日銀が追加利上げをするほかにないからである。

 たしかに利上げには、景気に犠牲を強いる面がある。だが、すでに述べたように、物価対策の切り札でもある。現在、個人消費が伸びず、中堅や中小企業の倒産が増加している原因が物価高にあって、その主たる原因が円安である以上、多少の「犠牲」には目をつぶることも必要なのではないだろうか。

 それに、円安を修正することには、ほかにも大きな意味ある。円の価値が下落すれば、日本の国際的な地位も下落してしまう。円安が続くかぎり、国際的に見て非常に低水準になったと指摘される日本の賃金水準は、相対的にさらに下がってしまう。そうなれば(すでにそうなっているが)、人材の流出にも加速度がつく。日銀が自国通貨の価値をしっかり守ってくれないと、日本の崩壊につながるのである。

 石破新政権にはぜひ、こうした大局を見据えたうえで、日本の国力を高める経済政策をお願いしたい。また、弥縫策にすぎない減税や給付ばかりを主張する野党も、物価高の原因に斬り込み、日本の将来まで見通した政策をこそ、国民に見せてほしいと願う。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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