「唐田えりか」が坊主頭に!? 話題のネトフリドラマ「極悪女王」で“いろいろあった女優二人”が一皮むけた

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 ただ、恋に浮かれただけ。相手がいろいろとアレで。そんな女優二人が増量して、伝説の女子プロレスラーコンビを演じると話題になった「極悪女王」。単なるカワイコちゃんだった唐田えりかは劇中で坊主頭になるのも辞さず、体当たりで長与千種を演じた。剛力彩芽は「オスカーで馬車馬&野麦峠期」から「ZOZOとんちきセレブ期」を経て、演技の幅を広げ、男前なライオネス飛鳥を持ち前の身体能力で演じ切った。二人とも女優として活路を開いたなぁと感じている。

 おっと、主役は極悪同盟のダンプ松本こと松本香。演じたのは多彩な表情と声を持つ芸人・ゆりやんレトリィバァ。貧しい幼少期、クズ父(野中隆光)に虐げられても別れない母(仙道敦子)を振り切って、全日本女子プロレスの門をたたく。幼い頃、ビューティ・ペアのジャッキー佐藤(鴨志田媛夢〈ひとみ〉)に憧れ、スターレスラーになることを夢見たからだ。同期は次々とデビューするも、パッとしない香。ヒールを命じられるが、心根の優しい香はうまく振る舞えず。各地を巡業する際に宣伝カーを運転させられたり、外国人マスクレスラーのなりすましをやらされる始末。

 優しすぎて鈍くさくて、情けないやら愛おしいやら。そんな香は同期や家族の裏切りともとれるすれ違いに、心のよりどころを失う。絶望からの闇堕ち。「ジョーカー」のホアキン・フェニックスよろしく、残虐非道のヒールとして覚醒する。

 ゆりやんが「香→ダンプ」への変貌(心の揺らぎ)を魅せた。話題は冒頭の二人がさらったが、ゆりやんの役者としてのポテンシャルには目を見張るものがある。

 そもそも「ダンプ松本は無理して悪を演じているのだな」と子供の頃に思っていた。テレビのバラエティー番組に出て、お決まりで暴れる彼女の瞳の揺れに「偽悪」を感じていた。本当は臆病で穏やかな人ではないかと。その印象をゆりやんが完璧に再現、昭和の記憶と一体化した感じがした。

 また、ジャガー横田を演じた水野絵梨奈、デビル雅美を演じた根矢涼香も一体化していた。この二人のリングの上での動きがレスラーそのもので、絶妙なキャスティングだと感心した。昭和に熱狂を生んだ女子プロレスをちょっとでも体感した人にとっては、あの頃の映像と重なる一体感を楽しめたのではないかしら。

 後半はとにかく血まみれ。お若い方はこれを野蛮と感じるかもしれない。エンターテインメントの表現に、壁も天井も横やりもまだ少なかった時代は、確かに野蛮だが、うねるような熱量があった。Netflixが緻密にエネルギッシュに作る「昭和の熱量」シリーズが中高年の心を打つわけよ。全面喫煙とか札束で支払われる給料とか、小脇に抱えるセカンドバッグとかアイパーとかもな。このあたりは男性陣の功績も大いにある。真剣勝負のプロレスをやりたい女の子たちの情熱を支える一方で搾取しつつ、しっぺ返しを食らう男たちな。

 強くて清く正しく美しいアスリートが絶賛される令和だからこそ、昭和の闇でもがいた人が輝いて見える。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年10月17日号掲載

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