「石破首相」の超早期解散で蘇る野田代表「悪夢の政権交代」の記憶

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歴史に名が残る

 この解散判断が民主党にとって大きな痛手となったのは歴史的事実である。党首討論での解散を巡る発言が局面を大きく変えたという経験が、今回野田代表が質問に立つにあたって念頭にあったのは想像に難くない。

 当時、解散すれば民主党の敗北は目に見えていた。それでもなお野田氏が解散を口にしたのは、安倍氏の挑発に乗ったからというだけではない。ここも野田氏や周辺にとってはいまだ清算できていないトラウマかもしれない。

「野田氏は首相になる前に財務相を経験し、財務省幹部に財政再建の重要性とそのために消費増税が必要だということを説かれています。それは野田氏に限らないのでしょうが、特に野田氏に対しては、財務官僚は、消費増税を実現すれば“歴史に名が残る”などと言い、政治家としてのやりがい、成果の意義を訴え、説得したと聞いています。野田氏はそれまで頑強な財政再建論者であったことはなかったはずですが、ある意味で洗脳されていったのでしょう。そのため、安倍氏との党首討論では消費増税で国民に負担をお願いするのだから国会議員も議員定数を削減するという痛みを受け入れるべきだという提案をして、それを飲んでくれるなら解散してもいいと言い放ったわけです。その後、今日に至るまで野田氏は財務省寄りの政治家だと見られ続けるようになりました。これは野党代表としてはプラスとは言い難い」(同)

野田アレルギー

 その後に行われた総選挙で民主党は前回に獲得した308議席から57議席にまで大幅減となった。安倍氏ら自民党議員は、民主党が成し遂げた政権交代を「悪夢の政権交代」と攻撃していたが、民主党議員からすれば、野田氏の発言によって自分たちが政権から転げ落ちるという「悪夢の政権交代」が実現してしまったわけである。

「解散は少しでもそれを行う方にとって有利なタイミングでやるという当たり前のことを野田氏は行えなかった。自らをバカがつくほど正直だと言っていたことがありましたが、巻き込まれて選挙を戦った民主党関係者らはたまったものではなかったでしょう」(同)

 こうしたことから民主党内での野田アレルギーは極めて強く、今回の代表戦で当選を果たすまで、12年の時間が必要だったことになる。それだけに「有利なタイミングでやる」をさっさと実行しようとしている石破総理が許せなかったということか。

デフレからの脱却を妨げた

「野田氏は弁が立ちますし、もちろん金権政治とは無縁です。そして、真面目な人なのは間違いない。ただし、政策面を見た場合、財務官僚に口説き落とされた政治家でもあるということは改めて問われるべきではないでしょうか。現在のツケを将来に回さないために、というのは聞こえのよいフレーズですが、現在を生きる人たちをないがしろにして良いのかという疑問も当然あります。事実、野田氏はそれを訴えて数多くの仲間を討ち死にさせてしまったわけですし、安倍氏自身も野田氏が敷いたレールである消費増税についてはかなり頭を悩ませていました。結局、この増税の功罪について、現在の野田代表や立憲民主党はどう考えているのでしょうね。デフレからの脱却を妨げたという批判に正面から答えられるのか」(同)

 今回の衆院選で民主党は20~30の議席を上積みすると予想されている。ただし、さほど大きなうねりは起きないという見方も。

「野党が候補者を絞って与党と戦えばかなり拮抗するのは数字の上では明らかですが、選挙区事情はそれぞれに複雑でなかなか集約できないままです。筋金入りの野党共闘論者である立憲民主党の小沢一郎氏は総合選挙対策本部長代行を務めていますが、野党各党の候補者1本化について“魔法使いでもない限り、難しいんじゃないか”と取材に答えていました」(同)

 小沢氏もさじを投げた格好のようだ。野田氏が解散についてのトラウマを払拭できる機会は訪れるのだろうか。

デイリー新潮編集部

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