「韓国が納得するまで謝る」イシバは“第2のハトヤマ政権”だ… 尹錫悦が期待する根拠

  • ブックマーク

詠み人が悪い「地位協定の改定」

――「石破政権は第2の鳩山政権」という意味が分かりました。

鈴置:両政権は沖縄に関しても共通点があります。鳩山政権は普天間基地に関し「最低でも県外に移転する」と約束しました。石破氏は「日米地位協定を見直す」と訴えています。

 米国からすれば、いずれも反米媚中政権が日米の間に争いの種を蒔いて同盟破壊を狙っているように見えます。日米同盟の強化に努める政権が唱えるのとは「見え方」が異なるのです。外交界の言葉で言えば「詠み人が悪い」のです。

――石破氏の外交センスには首を傾げます。

鈴置:さすがの石破氏も今回の総裁選の直前、2024年8月7日に上梓した『保守政治家――わが政策、わが天命』では、「中国も加盟する」アジア版NATO構想は封印しています。「反米媚中派」との批判を恐れたのでしょう。

 石破氏に近い人は「米国では『異論正論』など読まれていないから反米媚中派と認識されはしない」と言い張ります。そんなことはありません。『異論正論』もちゃんと読まれています。

 ある日本の安保専門家は米国の専門家から「イシバの方が危険だ。ハトヤマは思いつきで言っているだけだが、イシバは本気で言っている」と指摘されたそうです。

日本よりも信頼できる韓国

――日米関係が悪化するのは分かりました。それを韓国はどう利用するのでしょうか?

鈴置:東アジアで頼りになる同盟国は日本でなく韓国だ――と米国に売り込むチャンスとするでしょう。鳩山政権の時にも起きたことです。当時の李明博(イ・ミョンバク)政権は日米が「沖縄の米軍基地」を巡り衝突したと見てとると「済州島への全面移転」を打ち出しました。実現はしませんでしたが。

 米国はこの韓国の好意に応え、G20首脳会議と核セキュリティ・サミットのアジア初開催の栄誉を日本ではなく韓国に与えました。日本の外務省の幹部職員は「なんで日本よりも韓国が先なのか」と悔しがりました。

 米国の後ろ盾を得たと確信した李明博大統領は、竹島に上陸したり、天皇に謝罪要求したり、日本に対しやりたい放題になりました。

『韓国消滅』の第4章第1節「日本を見下し『独立』を実感」で「反日」から「卑日」に転じた韓国を分析しています。基本的には日韓の国力の差が詰まったことが原因でしたが、引き金は鳩山政権による日米関係の悪化でした。

――尹錫悦大統領も竹島に行くのでしょうか。

鈴置:今現在は、行く地合いにはありません。朝鮮半島は緊張を高めており、第2次朝鮮戦争の可能性が増しています。そんな時に日本人を怒らす愚は避けるでしょう。「第1次」でもそうでしたが、韓国が北朝鮮と戦う場合、軍需基地としての日本のバックアップが不可欠です。

米国をテコに韓日新宣言

――「第2次朝鮮戦争」は本当に起きるのでしょうか?

鈴置:起きなくとも、北朝鮮に対峙するハラを固めた韓国の政権は、日本との良好な関係を演出し続ける必要があります。それが「第2次」の抑止にもなるわけです。

 日本に仕掛けるとしたら「竹島」のような攻撃型ではなく、融和型を採用するでしょう。尹錫悦政権には米国に対し、「韓米日の軍事協力強化のためにも韓日の新宣言が必要だ。消極的な日本に圧力をかけて欲しい」と訴える手があります。

 日米関係がいい時でしたら米国は取り合わないでしょうが、第2のハトヤマが登場したのです。お灸をすえるために「新宣言ぐらいしてやれ」と日本に命じてもおかしくありません。

 韓国は長い間、小国でした。大国間の力の微妙な変化を読みとって臨機応変に立ち回り、生き残ってきました。ぼうっとした日本人が想像もしない手を繰り出すのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国消滅』『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。