川口市に集まるクルド人は本当に難民なのか? 「僕自身がクルド人だが、トルコで迫害はない」 

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「トルコ国内でクルド人が迫害されているという事実はない」

 ただし、非合法であるPKK(クルド労働者党)や、「ギュレン運動」という宗教社会運動に関わっている人々は監視や嫌がらせの対象となり得ます。ギュレン運動の関係者は2016年にクーデター未遂事件を起こし、弾圧の対象となって欧米諸国に逃れました。欧米諸国で難民認定されたトルコ(クルド)人は7万人以上いますが、多くはギュレン運動関係者でしょう。

 ある国際機関の担当者はこう述べていました。

「トルコ国内でクルド人が迫害されているという事実はない」

 大使館の担当者も、

「今のエルドアン政権はクルド人を迫害したり法的に差別するということはありません。ただし反政府武装組織であるPKKの関係者、著名だったり批判的だったりするジャーナリスト、クルド系の政治家については注目している。それ以外の一般のクルド人については、関心を持っていません」

 日本のマスメディアが報じる「犠牲者観」に基づいたクルド人への見方とはだいぶ異なるのです。

「僕自身がクルド人だが、迫害はない」

 調査の中で、3人のクルド人と、シリアから逃れて来たクルド系難民にも話を聞きました。

 その中の一人、ガジアンテップのアメリカ系NGOで働いているアレヴィー派の男性は、「僕自身はクルド人だが、エルドアン政権が20年やってきたクルド人との和解政策を支持する。エルドアンが大統領になってからはクルド人への迫害はない」と述べていました。ただ一方で、「西部と東部で経済格差はある。東部のクルド人地帯はやはり開発が遅れている。アレヴィー派への差別もある」とも指摘していました。

 また、ヴァン市で観光通訳をやっているクルド人男性は政府に批判的。彼とはヴァンからイスタンブールまで一緒に飛行機で帰りましたが、混み合う待合室で搭乗を待っているとき、英語で声高に政府批判をしていました。私は「彼は大丈夫かな」と危惧したのですが、とがめられることもなかったのでそれは杞憂のようでした。さらに、もう一人のクルド人男性はもっと反政府的でした。彼の妹はPKKの構成員で今も東部の山の中で活動しているとのこと。本人もPKKシンパです。

 彼によれば、1990年代、まだ幼い頃に、夜中にトルコ兵が家に来て、家族がみな集められ、庭で2人の親戚が銃で撃ち殺された、と。それがトラウマになり、今でも強い反政府感情を持っているそうです。

 そんな彼は、私が訪れる数週間前にメッセージアプリのWhatsAppにPKKの旗を載せ、警察に呼びつけられたとのことです。

 しかし、そうした“嫌がらせ”を受けたものの、逮捕や処罰までされることはない。それどころか外国に自由に出入りし、韓国や日本にもビジネスで渡航したことがあるそうです。

 後編【川口市のクルド人の来日目的は「就労と家族統合」 クルド人自身が「弟は難民じゃなくて移民」】では、クルド人の本当の来日目的と、日本人が彼らと共生するための道について詳しく報じている。

滝澤三郎(たきざわさぶろう)
東洋英和女学院大学名誉教授。1948年、長野県生まれ。東京都立大学大学院修了後、法務省に入省。以後、国連ジュネーブ本部やUNRWAなどに勤務し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では駐日代表等も務める。東洋英和女学院大学の教授を経て、現在は名誉教授。

週刊新潮 2024年10月10日号掲載

特別読物「彼らは可哀想な『難民』ではない 埼玉・川口市『クルド人問題』の深層」より

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