川口市に集まるクルド人は本当に難民なのか? 「僕自身がクルド人だが、トルコで迫害はない」 

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クルドを巡る事情を現地で調査

 このような中で、川口のクルド人問題が話題となっています。

 彼らについては迫害や暴力の対象、犠牲者として捉える人々(犠牲者観)と、共同体の安全や価値への脅威をもたらす侵入者として捉える人々(侵入者観)が対立しています。互いに批判をし合い、分断が生まれています。

 この問題の解決のためには、川口に来るクルド人がどのような人々で、なぜ来日しているのかを押さえておくことが必須でしょう。

 UNHCRは、難民を「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受ける恐れがある」人々としています。出入国在留管理庁は、「迫害」を「生命、身体又は自由の侵害又は抑圧及びその他の人権の重大な侵害」と定義していますが、果たして彼らは「迫害」されているのでしょうか。

 私は2021年4月からこの3月まで、国際的な動向を踏まえた日本の難民政策のあり方を考察する研究に取り組みました。

 その一環として昨年はポーランドとアメリカを訪問。今年の3月10日から21日にはトルコを訪れ、現地調査を行いました。

 トルコ西部のイズミール、中部の首都アンカラ、2023年2月に大地震のあった南東部のガジアンテップとその周辺の街、東部のヴァンなどを訪れ、UNHCRやIOM(国際移住機関)などの国際機関、SGDD-ASAM(難民申請者・移民連帯協会)、INARA(支援、救済、援助のための国際的ネットワーク)、またケア・インターナショナルなどの国際的NGOを訪ね、クルドを巡る事情を聞きました。

 トルコにいる日本人の研究者や日本大使館職員にも聞き取りを行っています。

 現地の情勢を良く知り、英語で解説できる3人のクルド人には特に詳しく状況の説明を受けました。

大学に進学するクルド人も少なくない

 聞き取りや各種資料を総合すると、1980年代から90年代の“内戦”時代には、クルド人が差別、迫害されたという実態はあったようです。そのためクルド人の中には難民として外国に逃げる者もいた。その多くは欧米に流れ、ごく少数は日本にも来たようです。

 しかし、2003年、エルドアン政権の誕生をきっかけに状況は変わりました。EUへの加盟を望んでいた政権は、EU人権基準の遵守が求められるため、クルド人に対する法的な差別をなくした。クルド人は人口約8500万人のうち20%ほどを占めますが、クルド系の政党があり、クルド人の国会議員がいて、大臣も高級官僚もいます。エルドアン現大統領の夫人はクルド系。兵役義務も他の国民と同じ最低6カ月間です。義務教育の国語ではトルコ語のみが教えられ、クルド語は対象外ですが、他の少数言語も同様の扱いです。公立の学校は大学まで無料で、大学に進学するクルド人も少なくありません。クルド人が難民不認定となり帰国したからといって、逮捕されたり死刑になることはなく、そもそもトルコに死刑制度はない。

 アレヴィー派というクルドの中でも少数である民族については社会経済的な差別を受けることはあるようですが、これも迫害とまでいえるレベルではありません。

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