“手製の水パイプ”で子どもが大麻を吸引…タイを「ほほえみの国」から「ドラッグの国」に変貌させた「大麻合法化」の知られざる現実

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「子どもを守ること」を最優先に

 NY市の大麻合法化の仕組みや実情については、(編集担当の許可があれば)次回にでも紹介したい。その上で私が訴えたいのは、合法化であれ何であれ、制度を改正する際には“子どもたちへの影響を最優先に考えてほしい”ということだ。

 薬物行政だけではなく、近年はあらゆる分野で子どもの人権が声高に叫ばれている。しかし、現実には多くの子どもたちが事件や事故に巻きこまれている。

 警察庁が7月に発表した統計によると、2023年の9歳以下の「行方不明者」はなんと1115人。前年に比べて50人以上増えている。“ミッシング・チルドレン”と呼ぶそうだが、身代金目的の誘拐事件はあまり聞かなくなったにもかかわらず、それでも毎年1000人近い子どもたちが消えているのだ。その後、大半が発見されるというが、薬物事件や性犯罪に巻き込まれてしまったケースは少なくはないだろう。もし、ここ日本で、マリファナや大麻菓子が自由に手に入る状況となればおのずと事故が頻発する。われわれ大人は、ここまで予想しなければならないと言うことだ。

 冒頭の「トランプ発言」について筆者はとやかく言う立場にはない。ただ、知ってのとおりアメリカは薬物犯罪・乱用大国だ。アメリカが世界に与える影響は映画、音楽、ネットなどと同じようにとてつもなく大きい。日本のマリファナ文化も、危険ドラッグ、コカイン、MDMAなどのブームもすべてアメリカから入ってきている。今後もこの流れは続くだろう。

 読者にはこのことを再認識してほしい。そして、アメリカと日本では薬物事情も考え方も法制度も全く異なるということを知ってほしい。「他国の動向に右往左往する必要はない!」と私は思っている。「アメリカでは合法化が」「アメリカでは誰もが」と口癖のように話す人々や、それを取り上げるメディアも存在するが、そうした意見に何も考えずに流されてほしくない。もちろん、今回の大麻取締法の法改正も完璧とは言えないだろう。まだまだ改善すべき点はあるかも知れない。だが、それでも多くの関係者が時間をかけて、議論を重ねて作られた制度である。そのことを理解し、自分と子ども達を守るため、多くの大人たちに“大麻問題”と向き合ってほしいと考えている。

第1回【合法化が進むアメリカで「大麻の密輸・密売」が激増しているのはナゼか…元マトリ部長が説く“大麻合法化”の不都合すぎる真実】では、すでに合法化された地域で、不正薬物が横行するという不可解な現象の謎を解き明かしている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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