合法化が進むアメリカで「大麻の密輸・密売」が激増しているのはナゼか…元マトリ部長が説く“大麻合法化”の不都合すぎる真実

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アメリカでは「密輸・密売事件」が4倍に

 また、合法化と聞けば「大麻は安全だから自由化された。その結果、正規の大麻経済が生まれ、逮捕者が減って、犯罪組織への資金の流入も激減した。いいことずくめだ」との印象を受けるかもしれない。だが、これは大きな勘違いだ。

 アメリカを例にとるなら合法化が進んで以降、大麻が絡む重大犯罪は増加している。DEA(米麻薬取締局)などの捜査機関に摘発される密輸・密売事件は、ここ数年で約4倍に増加。薬物の押収量も急増している。

 2023年の日本における乾燥大麻の押収量は過去最大の約850キロに上る。これは極めて憂慮される事態と言えるが、アメリカでは24州とワシントンDCで大麻が合法化され、成人なら市中の大麻販売薬店(大麻薬局=Dispensaries)で一定量の大麻を購入できる。にもかかわらず、密売や密輸が横行。違法な乾燥大麻だけでも毎年約300~1000トンが押収されている。

 これは一体、どういうことなのか。

 端的に解説しよう。まず、合法化の波を受けて大麻使用者が急増する。彼らが正規の大麻を購入するには大麻税や消費税(コロラド州を例にとると大麻税2.9%、消費税15%)がかかる。そのため、安価な“違法不正大麻”に客が流れるのだ。いわば大麻の闇市場がかつてないほど拡大し、潤ったことになる。

 それどころか、効果の薄い廃棄寸前の大麻に“死の麻薬”と言われる「フェンタニル」を混ぜ、酩酊効果を増強させて販売するケースもある。実際、使用者が連続して救急搬送されている事態も起きている。その他、大麻摂取に起因する事故も相次いでいる。大麻について議論するのであれば、当然ながら、合法化が裏目に出たケースについても知らなければならない。

第2回【“手製の水パイプ”で子どもが大麻を吸引…タイを「ほほえみの国」から「ドラッグの国」に変貌させた「大麻合法化」の知られざる現実】では、2022年にアジアで初めて大麻合法化に踏み切ったタイの実状に迫っている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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