AIの進化で“校閲者”は絶滅するのか 活字文化を支える「校閲」、デジタル化で変わったこと、変えられないこと

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誤字脱字を見逃す可能性が

 また、通信環境さえ整えば、自宅などでの作業も問題なくできます。そのため、コロナ禍を経て主に雑誌の現場でiPadを導入する出版社も増えてきました。

 この「iPad校閲」は確かに便利ではあります。「紙」での校閲に比べて優れているところもあれば、一方で、そうとは言い切れないところもあるのです。

 例えば、紙よりも誤字脱字を見逃しやすくなる可能性があるということです。体感的にはデジタルデバイスでの校閲作業よりも紙での作業の方が文章上の単純な間違いを見つけやすい。iPadで作業する時は自在に拡大・縮小ができるとは先にも触れましたが、拡大したまま作業をしていると文章の中身にばかり集中し、誤字脱字等を脳が勝手に補正して読み進めてしまうこともあります。その点、紙で読む場合は前後の行も自然に目に入るので、ふと間違いに気づく、というパターンが多いように感じます。

 さらに、印刷物で校閲作業を行う場合、蛍光灯などの下で作業するため、紙への反射光を利用します。他方、iPadで作業する際はiPadが放つ光、すなわち透過光を利用することになります。もしかすると、透過光よりも反射光で作業した方が間違いに気づきやすい、ということがあるのかもしれません。

 加えて、200ページ、300ページの書籍になると紙の方が作業効率が良い。それだけのページ数になると描画を加えていった場合データが重くなりすぎて、やりとりに不都合も生じてしまいますし、アプリケーションが負荷に耐え切れず突然終了して進捗が吹っ飛ぶ……などとなったら目も当てられません。iPadは、現状、雑誌などの短めの文章の校閲に導入するのが妥当なのではないでしょうか。

複数の辞書を用いる

 校閲者にとって「調べもの」は重要な仕事です。書かれている内容は正確か、その表現は正しいと言えるのか……。ゲラの中で調べなければいけない事柄は多岐にわたります。

 そのため、校閲の現場では複数の辞書を用います。例えば、「新潮現代国語辞典」「新明解国語辞典」「岩波国語辞典」「広辞苑」……など。また、漢字辞典も必須です。「新潮日本語漢字辞典」はとても使いやすいです。表現としてしっくりこない言葉と出会った時は類語辞典で調べるのもおススメです。

 それぞれの辞書には特徴があるので、同じ表現が特定の辞書では是とされても、他の辞書では非とされることもあります。

 例えば「失敗する」という言葉で考えてみましょう。この語は他動詞でしょうか? 広辞苑・日本国語大辞典は自他の明記はなく、用例は自動詞のみ。岩波国語辞典・新明解・新潮現代国語は自動詞と明記し、明鏡国語辞典の場合は自他動詞としている。

 では、実際の「失敗する」という語の使い方はどうでしょうか。

「説得が/に失敗する」(自動詞)
「味付けを失敗する」(他動詞)

 というように、自他双方で使うことがあります。そこで原稿中に「~を失敗する」という表現があって疑問に思った時、参照する辞書が少ないと「に失敗する」と直す疑問を安易に出してしまいかねません。

 これはどの辞書が間違っているという話ではなく、漢字の使い分けをどこまで厳密に行っているかなど、辞書ごとに個性があるということです。複数の辞書を用いて、その表現が適切と言えるのか、本当に疑問を出すべきなのか、判断していくことが求められます。また、最近では手元に電子辞書を置いて、その電子辞書をファーストチョイスとして調べていく人も。小学館グループが提供するインターネット百科事典『ジャパンナレッジ』と契約して調べるという方法もあります。

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