総裁選でも新政権でも議論されない“日本の急所” ダウンサイジングしなければ破綻する

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地方創生の落とし穴

 石破総理は所信表明演説で、地方創生を支援する交付金を、当初予算ベースで倍増させる考えを示した。これに関しては、地方が疲弊している状況を鑑みるに、必要な予算だとしておこう。ただし、使い方をまちがえると地方の、ひいては日本のさらなる衰退を招く。

 私は取材で地方都市を訪れることが多いが、わざわざ予算を投じて衰退を招いていると感じるケースが非常に多い。典型的なのは以下のような事例である。

 以前はその都市の「顔」の一つだった駅前の街並みを壊し、直線的で広い道路で区画し直し、中核にタワーマンションを据える。また、広い道路には広い歩道が備わる。古い市街の真ん中を、街を左右に分断するように真っすぐな広い道路が通されるケースも多い。

 おそらく、近隣の都市からも人を呼び寄せ、都市を活気づけるという目的のもとに整備したのだろう。ところが現実には、人出で賑わうことを前提に設計された広い街区は、人が歩いていないために寂しさが漂い、ヒューマンスケールを超えた大きさだけが強調される。街を分断する道路も、たんに人々の生活圏を分断しただけで終わっている。

 こうして個性があった街並みは失われ、その都市らしさがなくなって、他所から人を呼び寄せる魅力は、かえって減退している。生じるのは同じ都市内の移動で、その結果、疲弊していた既存の街区はさらに衰退し、シャッター商店街が増える……。

 地方に予算を渡すだけでは、こうした自滅が増えるだけにもなりかねない。地方にとって重要なのも、ダウンサイジングなのである。拡大する、拡張するという発想は捨て、各地方が潜在的にもつ魅力を引き出しながら、既存の街を磨いていく。そういう指針を示さずに予算だけを渡しても、地方創生が地方衰亡につながりかねないと指摘しておきたい。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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