「マスターズ」出場を19歳アマ選手が“辞退”の衝撃 背景には世界ゴルフ界の競争激化も

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アマチュア・キャリアの「仕上げ」として

 R&A等が創設したアジア・パシフィック・アマチュア選手権における最大の魅力が、やはりR&A等が創設した新たな制度によって「活かされなくなった」「活かせない状況になった」ことは、ある意味、皮肉な偶然だった。

 しかし、ゴルフ界をリードするR&A等が若い才能を最大限に生かそうと考えた末にクリエイトされた制度が、世界のアマチュア界のトッププレーヤーによって、それほどまでにフル活用されつつあると前向きに捉えることもできる。

 それにしても、と首を傾げる人々もいることだろう。大会後にすぐにプロ転向することをあらかじめ決めていて、「マスターズと全英オープン、全英アマに出られる」という優勝特典を辞退するのなら、なぜディンは、わざわざ今年の同大会に出場したのか。

 だが、ディンにはディンなりの想いがある。彼は同大会に過去3度出場し、いずれも悔しい想いを噛み締めた。とりわけ昨年大会は3人によるサドンデス・プレーオフで敗れ、2位に甘んじた。

 ディンにとって今回の出場は、アマチュアとしてのラスト大会であり、アマチュア・キャリアの「仕上げ」「けじめ」のようなものだったのではないだろうか。

プロアマともにゴルフ界の競争激化

 ゴルフ界を牽引するR&AやUSGA、そしてプロゴルフ界をリードするPGAツアーやDPワールドツアーがアマチュアのために作り出したパスウエイ(道)の中で、どの道をどう選び、どうやって歩いていくか。その選択と判断は、もちろん本人次第である。

「まさか優勝するなんて……」

 それはディンにとっては、うれしいサプライズであり、優勝特典を放棄することになったことも彼にとっては予想外で想像以上の驚きであり、あらかじめ「優勝して優勝特典を放棄しよう」などとは思ってもいなかった様子である。

 もしも、10月に開催された今大会の翌週や翌々週にマスターズや全英オープンが開催されるのであれば、ディンは、それらに出場してからプロ転向することもできたのかもしれない。

 しかし、マスターズは来年4月、全英オープンは来年7月だ。若年化に拍車がかかるプロゴルフ界で輝かしいプロキャリアを目指し、先を急ぐ若い才能にとって、それまでの半年から1年弱は待つことができない長い日々ということなのだろう。

「アマチュアであれ、プロであれ、僕は必ずマスターズにも全英オープンにも出場する」

 歩む道は自分で決め、自分で切り拓く。そう決意し、毅然と語ったディンは、今はまだ19歳のアマチュアながら、とてもたくましく感じられた。同時に、世界のアマチュアゴルフ界とプロゴルフ界の競争の激化を、あらためて痛感させられた。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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