石破首相は「リニア」に興味がない 鉄オタとしては「保守本流」で寝台特急には「1000回乗った」

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国鉄時代とは対称的

 ブルートレイン「出雲」は2006年に廃止され、他の列車も2016年3月の北海道新幹線開業をもってすべて姿を消した。人気が高かった「北斗星」「トワイライトエクスプレス」などの廃止の報には「暗澹たる気分」と石破氏はブログでつづっている。

 よく言えば選択と集中、合理的、悪く言えば地方切り捨て――国鉄時代とあまりに対称的なJRの現状には、石破氏のみならず長年の鉄道ファンは忸怩たる思いを抱くこともある。

 鳥取・島根には寝台特急の「サンライズ出雲」が運行されてはいるが、石破氏はこれにも「『出雲』ほどの愛着はありません」(※J-CASTニュース2024年1月6日掲載インタビューより)と素っ気ない。「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」(同上)と熱弁するほど、現代ではほぼ絶滅した在来線の長距離列車への思い入れも強い。

 憧れの列車が廃止されていくのをただ見送るしかなったファンは、長く国政に携わってきた石破氏に、無意識に思いを仮託していたともいえそうだ。石破氏がオタク議員として、知名度を保ってきた一因でもある。

 ゆえに石破氏は、新幹線の高速化やリニアにも素っ気なく、逆に地方の鉄路の維持にかける思いは強い。過去のインタビューでも、リニアに対する疑問を投げかけている。

 線路自体を国や自治体が保有して、事業者は列車運行と保線だけを行う「上下分離方式」にも理解を示している。鉄道雑誌やネットにおいては長年ファンから推されてきた施策でもある。

 大都市と地方が同じ線路で、一本の列車でつながっていることに意義を見出す石破氏のスタンスは、地方の復興を掲げる政治姿勢にも通じていてブレがない。だが、首相就任後はリニアについても「早期開業を目指す」と話し、鉄道好きとしての思いとは別に交通施策に関わることになった。

 またJR発足から40年近くが経ち、当然マニアの世界にも世代交代が起きる。国鉄時代を知らない若い世代には、北海道から九州まで新幹線があるのが当たり前。東京など都市部では私鉄や地下鉄の存在感も大きい。昭和時代と違って、鉄道は飛行機や高速道路と並立する選択肢になった。

 鉄道趣味の在り方も変わり、動画とSNSを駆使する「交通系ユーチューバー」も台頭。彼らは鉄道旅行を軸としつつも、飛行機や船、バスも駆使して面白い旅を探求していくスタイルで視聴者を集めている。

 文字通り、国の鉄道として国鉄が絶対的に存在していた時代を知る石破氏らと、公共交通の中の一つとして鉄道を選んでいる現代の若い趣味人との間には、ジェネレーションギャップもない訳ではない。ブルートレインへの郷愁にも、どこまで共感を得られるだろうか。

 総裁選での党員投票結果や世論調査が示すように、石破内閣の支持率は地方と高齢者層で高く、都市部と若年層で低い。鉄道ファン界の石破評も同様の傾向がありそうで、「オタク票」の獲得も容易ではないかもしれない。

デイリー新潮編集部

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