アイドルから演歌歌手へ転身の苦楽…長山洋子「二度と音楽界に戻れないのでは?と葛藤しつつも受け入れた」

  • ブックマーク

“力の抜け具合”が功を奏した「捨てられて」や「嘘だといって」はカラオケの定番曲に

 演歌部門第2位は、シングルセールスが累計32万枚以上(オリコン調べ、セールスについては以下同じ)、有線リクエストも年間2位となり、数々の音楽賞を受賞した’95年の「捨てられて」。当時、“でもね”と照れつつも手で可愛くポーズをしながら歌うご婦人方が多く、歌謡曲調の親しみやすいメロディーや長山の軽やかな歌唱も好評で、カラオケの定番曲にもなった。

「『捨てられて』は、プロデューサーから、昭和40年代にいしだあゆみさんや伊東ゆかりさんが歌っていらした歌謡曲が私に合うんじゃないか、と言われたのがきっかけでリリースしました。でも、最初はシングル曲のつもりじゃなくて。レコーディングも、“さらっと歌ったほうがいいよ”と言われたので、力まずに歌いました。だから今聴くと、“なんて適当に歌っているんだろう”って、自分でもビックリします(笑)。でも、その力が抜けた感じが逆によかったんでしょうかね」

 本人は“適当に歌った”と謙遜する「捨てられて」だが、演歌のジャンルでありつつ、長山ならではの可憐な歌声が曲全体を華やかにしている。演歌に転身した直後は、“元アイドルが演歌なんて……”と穿った批判もあっただろうが、むしろ“アイドルだったからこそ”、曲の聞きやすさがぐんと増しているように感じられる。

「確かに、思い返してみると、そうですね! 当時は、アイドルらしく歌おうなんてまったく思っていませんでしたが、アイドル時代の10年間で身についたものは、どうしても自然に出ますからね」

「捨てられて」のほかに、同じコンビ(作詞:鈴木紀代×作曲:桧原さとし)による作品「嘘だといって」が、演歌部門第6位にランクイン。同作は、’96年のシングル「ヨコハマ・シルエット」のカップリングだった頃から、長山本人も“なぜだか気になる歌でした”と注目していたそう。それが’05年にリカットされ、「捨てられて」と同様、カラオケ初心者にも親しまれそうな作品に仕上がっている。やはり、本作も長山の人気楽曲パターンと言えるだろう。

 ちなみに、当時は安定してヒットを飛ばす香西かおり、伍代夏子、坂本冬美、長山洋子、藤あや子(以上、五十音順)の5人を“演歌女性5人衆”として、チャリティー・シングル「心の糸」を発表したり、特番が組まれたりしていた。長山は5人の中では、演歌キャリアこそ短いが、アイドル時代を含めた芸歴では最年長クラス。この場合、どちらが優先されるのだろう。

「この頃は、5人で集まることが多かったですね~。5人の中では、私が一番年下でしたし、演歌歌手としても一番の後輩だったので、みなさんをお姉さんのように慕っていましたよ。確かにアイドル時代を入れたら私が年長ですが、私の制作チームでは、“他の方々は5年、10年と積み上げてきて今があるけれど、洋子は演歌界ではペーペーなんだから、同じようにしていたら追いつかないぞ!”と諭されて、スタッフ一丸となってハイペースで頑張っていました」

 そして、演歌部門第3位は、’23年の「美味しいお酒 飲めりゃいい」。シングル全69作がサブスク解禁になったタイミングでリリースされたことも好調の一因だろうが、若い世代にも聴かれそうなノリの良い演歌で、本人も同作の新曲発表会にて“ストレス解消ソング”と紹介していた。

「女性歌手仲間のみなさんは、だんだん飲まれなくなっていますが、私はプロフィールに書いちゃうくらいシャンパンが大好き! 日本酒も好きですし、先日も北陸地方でのお仕事が昼間までだったので、いただきました(笑)」

 作曲を担当した水森英夫は、’94年の「蒼月(つき)」、’07年の「洋子の…新宿追分」についで3度目のシングル起用だが、高音が伸びる独特なメロディーが長山の滑らかなボーカルを引き出している。

「司会をつとめる番組『洋子の演歌一直線』(テレビ東京系)の収録で、1日に十何人分の楽曲を聴かせていただくのですが、台本には水森先生が作曲されたものがとても多くて、本当にすごいなと思いますね。先生にいただいた作品では、マイナー調の『洋子の…新宿追分』がとても好きです。先生には『蒼月』で、演歌の低音の響かせ方も教わりました。低音って、無理に出そうとしても出なくて、作品に出会って初めて出るんだと。『美味しいお酒 飲めりゃいい』では十数年ぶりにご一緒したのですが、“声が変わってないなぁ”って嬉しそうに言ってくださいました」

次ページ:シングル「蜩」で演歌に転身するも、「こんなにしゃれた感じでいいの?」と不安だった

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。