ネット銀行は“アイデンティティ”崩壊の危機… 日銀利上げで「住宅ローン」顧客争奪戦が激化

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お株を奪われたネット銀行

 住宅ローン商品を手掛けている、ある銀行の関係者はこう話す。

「三菱UFJの動きは正直に言って、驚きました。これまでauじぶん銀行や住信SBIネット銀行の最優遇金利が、いわば銀行各社にとって“ベンチマーク”となっていました。つまり、この2行の金利にいかに対抗していくかがポイントだった。ところが10月に入り、金利だけで比較するとメガバンクの三菱UFJが一番の低金利という状況になっている。事態が一変してしまったのです」(銀行関係者)

 住宅ローン比較診断サービスの「モゲチェック」を手掛ける、住宅ローンアナリストの塩澤崇氏も、こう指摘する。

「低金利がウリであるネット銀行にとって、業界最安金利のお株をメガバンクに奪われるという事態は、まさにアイデンティティの危機。今月に入ってからは、新規顧客の取り込みに苦戦している様子が伝わってきます」(塩澤氏)

 参考までに各行の適用金利(変動)を低い順に並べてみると、1位が三菱UFJ銀行の0.345%、2位がみずほ銀行の0.375%、3位がSBI新生銀行の0.420%、4位がpaypay銀行の0.465%、5位がauじぶん銀行の0.479%、6位が住信SBIネット銀行の0.480%、7位がりそな銀行の0.490%となっている(※10月11日時点、実際の適用金利は審査結果によって決まる)

 金利差が如実に表れたことで、塩澤氏の手掛ける「モゲチェック」への問い合わせ数も急増しているという。

「先月と比較して、ユーザーからは約3倍の問い合わせがあり、窓口がパンク寸前になっています。金利の先高観もある中、なるべく低金利で融資を受けたいというニーズがさらに強まっているのを感じます」(塩澤氏)

銀行が新規ユーザー獲得に必死な理由

 とはいえ、仮にこの先、政策金利の引き上げが続いたとしても、各銀行の変動金利の上げ幅は、基本的には政策金利の上げ幅と連動するはず。なぜ今、問い合わせが急増しているのだろうか。

「各銀行が政策金利に連動する“基準金利”を持っており、されにそこから独自の“引き下げ幅”を設定していることが関係しています。例えば、政策金利を基準金利と合わせて0.15%引き上げたとしても、同時に引き下げ幅も0.15%引き下げたとすると、既存ユーザーの利率は0.15%上がりますが、新規ユーザーの適用金利は据え置かれることになります」(塩澤氏)

 各銀行にとって、既存ユーザーからの金利収入と並ぶ重要な収益源が、融資額に応じて徴収する融資手数料。2.2%程度に設定している銀行が大半だ。

「ローンに付帯する団体信用生命保険の保険料は、銀行が保険会社に支払うのですが、その料金は顧客の平均年齢で算出されます。新規ユーザーを獲得することは、この平均年齢を一定水準に保つ役割もある」(塩澤氏)

 こうした新規ユーザーの“争奪戦”を背景に、各銀行は

1.基準金利を何%上げるか
2.引き下げ幅を据え置くか、拡大するか(適用金利を据え置くか)

 の判断を迫られることになっているのだ。

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