欧州「極右」の勝利は“民主主義の危機”ではない…「リベラル政治家」は中間層の怒りと向き合うべき
「政治エリート」に対する反発
オーストリア以上に深刻な状況にあるのはドイツだろう。9月に旧東独地域3州で行われた議会選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大幅に支持を伸ばした。
テューリンゲン州では32.8%の票を得て、23.6%のキリスト教民主同盟(CDU)を引き離して1位になった。旧東独地域の人々が日常生活で感じるインフレなどの問題を増え続ける移民に結びつけ、「既存政党の政策の失敗だ」と批判したことが功を奏したと言われている。
孤独に悩む若者にネット上の居場所を提供していることもAfDの強みだ。TikTokなどを駆使して若者の不満を吸い上げたことも勝因の1つに挙げられている。若者に刺さる言葉を発信できていない既存政党を尻目に、今後も支持基盤を強固にする可能性があると指摘されている。
これに対し、ドイツ政府は移民政策の厳格化を進めているが、前述したとおり、支持離れを食い止めるための有効な方策にはならないだろう。
敗北を喫したSPDや緑の党に反省の色がないことが最も大きな問題だ。民意を無視する政策を実施しておきながら、「旧東独の国民は40年近くもドイツ社会主義統一党(SED)の独裁政権下で暮らしていたため、いまだに民主主義が定着していない」と「上から目線」のお説教に終始している。
旧東独の国民の間で「ベルリンの政治エリート」に対する反発は高まるばかりだろう。
危機に瀕しているのは民主主義にあらず
他の政党が連立協議に応じないため、AfDが政権を樹立する可能性はゼロに等しいようだ。第2位となったCDUは第3位の極左政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW、15.8%)」と第4位の社会民主党(SDP、6.1%)との連立を目指している。
AfD抜きの政権が出来れば、32.8%の意思がテューリンゲン州の政治運営にまったく反映されないことになる。「旧東独地域で議会制民主主義への疑念がさらに高まるのではないか」との不安が頭をよぎる。
このように、ドイツ政治における上と下の対立はオーストリア以上に深刻なのだ。
極右の台頭で民主主義の危機が叫ばれているが、筆者は危機に瀕しているのは民主主義ではなく、これまで政治を主導してきたリベラリズムだと考えている。リベラリズムを信奉する政治家(リベラル政治家)は、移民などの積極的な受け入れや経済のグローバル化を重視するが、中間層の不満にあまり関心を示してこなかったからだ。
リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向き合わない限り、ドイツをはじめ欧州で民主主義の危機が発生するのは時間の問題なのではないだろうか。