「税務署員にはノルマがあって…」 国税庁が“相続税裁判で完敗”のワケ
日経速報ニュースが、国税庁の「完敗」を報じたのは9月27日のこと。それによると、8月末、相続税の税額を争った裁判で東京高裁が国税庁の控訴を棄却。国税庁が上告せず、そのまま敗訴が確定となった。
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裁判所の担当記者が解説する。
「この訴訟は “東北薬局事件”と呼ばれ、税務関係者の間で注目されてきました。舞台は仙台を中心に50店舗以上を展開している調剤薬局で、創業者は武見太郎・元日本医師会会長から薫陶を受けて事業を始めた人。2014年6月に亡くなり、2人のお子さんが株を相続します。しかし、未上場だったことから同業の上場会社の株価と比較して、相続額は総額約1億7500万円と申告したのです。払った相続税はそれぞれ約8000万円。これは国税庁のルールに基づいて算出したものです」
ところが、しばらくして国税庁が手のひらを返す。創業者の死後、医薬品商社が調剤薬局を買収し、その値段が申告時より10倍以上に跳ね上がっていたのだ。
「それを知った税務署は、株の評価額が少な過ぎたとして、税額をそれぞれ2億6800万円に引き上げ、さらには約2400万円の過少申告加算税まで取り立てたのです」(同)
誰もが畏れる“伝家の宝刀”
国税庁が根拠としたのは、「財産評価基本通達総則6項」である。たとえ法律に沿った申告でも課税逃れと見なされると、国税庁の判断で税額を引き上げることができるという内容だ。税務関係者の間では「総則6項」と略して呼ばれており、誰もが畏れる“伝家の宝刀”だ。以前にも固定資産評価額が実勢価格より低いことを利用するタワマン節税に対して総則6項が適用され、2年前に最高裁で国税庁が勝利した。
ところが今回、納得がいかない子供たちが国税庁を提訴すると、一審で国税が敗訴。控訴審も冒頭の通りに棄却となった。課税逃れとまではいえないと判断されたのだ。税理士の浦野広明氏が言う。
「公然の秘密ですが税務署員にはノルマがあって、達成するためにずさんな課税をしてくるケースがままあります。総則6項といってもしょせんは通達であって法律には勝てません。課税がおかしいと思ったら迷わず税理士に相談することです」
そこで国税庁に聞くと、
「国側の主張が認められなかったことは残念ではありますが、判決結果を受け止め今後も適切な課税に努めてまいります」
「伝家の宝刀」は、めったに抜かないから威力があるのである。