池田小事件「宅間守の遺体」と一夜を過ごした妻

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贖罪の意識は引き出せなかった

 二人の結婚で、第三者にとって何か利点があったとすれば、社会を震撼させた宅間という男がどういう最期を迎えたのか、その一部が分かったことだろうか。19日、東京都内で死刑廃止団体が開いた抗議集会で、由紀子さんのメッセージが代読され、執行の際の様子などが明かされたのである。その概要は以下の通り。

〈午前9時40分、大阪拘置所の職員が来訪。“近くに車を止めてありますので、その中でお話を”と促される。歩いている間に、“本人はキリスト教の教誨を受けているが、奥さんもキリスト教の方なんですか”など、質問される。その話のすぐ後に、“今朝、奇麗に逝きましたよ”と聞かされる。耳をふさぎながら路上に座り込み、大声で泣いた。職員から、“本人は、遺骨での引き取りではなく、遺体での引き取りを希望されていて、奥さんもその件については承諾済みだと本人からは聞いておりますが、それで間違いないですか”と事務的に尋ねられた〉

〈拘置所の3階の応接室のような部屋に案内される。“遺体はどこですか。早く本人に会わせてください”と何度もお願いした。いら立つ気持ちが抑えられなくなった。“彼の最期はどうだったんですか”と聞くと、“最後に煙草が吸いたい、と言ったので、吸わせました。その後、ジュースが飲みたい、と言ったので、ジュースも飲ませました。終始、取り乱すことなく、奇麗に逝きましたよ”との旨、聞かされる〉

〈裏門の傍に駐車された車の中に安置されたひつぎが目に飛び込んできた瞬間、ワアワア大声を上げて泣いた。すぐに車に乗り込み、ひつぎの顔の部分の扉を開け、そこに張られていたビニールシートを力任せにたたき続けた。4、5回たたいたところでシートが破れ、泣きながら、冷たくなった顔や髪を何度もなで、大声で泣いた。職員が“あまり騒ぐようだったら、車から降ろしますよ”と私を怒鳴りつけた。書類上の手続きが残っていたため、一旦車から降りると、一人の若い刑務官が私に駆け寄ってきて“最後に、奥さんに宛てて『ありがとうって、僕が言ってたって伝えてください』って言ってました”と、口早に小さな声で伝えにきた。年長の刑務官が囲む中で、守が最期に残してくれた言葉を伝えてくれたその刑務官に対し、感謝の気持ちでいっぱいになった〉

 そして最後に遺族に向け、こう結んでいる。

〈私は夫に代わり、被害者、遺族の皆様方の前に参上致し、心からのおわびを申し上げなければならないところですが、死刑囚と婚姻したという、非常識とも取られてしまうような立場である私のような者が、いまだ心の深い傷が癒えぬままでおられるであろうご遺族の皆様方の前に参上するのは、更にお心の傷を抉(えぐ)ってしまうばかりかとも思い、(中略)夫の犯した大罪は、決して許されることではないとは知りつつも、けれど、もう少し、あと少し、彼と対話を続ける時間が欲しかったと悔やまれてなりません。本人から贖罪の意識を引き出せないままに終わってしまったことに、今は心からの慚愧(ざんき)の念に堪えません。本当に申し訳ありません〉

 どうしてここまで宅間に献身的に接し、感情移入できたのか理解しがたいが、彼女なりに必死に贖罪の気持ちを持たせようとしていたことはうかがえる。が、その思いは最後まで夫には通じなかったのだ。

 ***

 死刑制度の是非はいまだ意見の分かれるところである。また、受刑者に贖罪の気持ちを持たせたいという気持ちは決して否定されるべきものではない。

 ただ、社会として優先すべきは、被害者のケアであり、こうした卑劣な犯行を防ぐ対策の強化なのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部

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