ちさと&まひろの「ゆる~い日常」と「殺し屋稼業」 二人の会話劇が心地いい「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」

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 ここ十数年で「主人公が(元)殺し屋」のテレビドラマを振り返ってみる。元殺し屋(遠藤憲一)が温泉地で働く「湯けむりスナイパー」、オスカー肝いりの長身美女の踊り子たちが殺し屋集団という「殺しの女王蜂」、元外科医で殺し屋(唐沢寿明)が案外合理的な「あまんじゃく」、剥いだりつぶしたり溶かしたりで残虐な暗殺を請け負う集団(石橋凌・金子ノブアキ・丸山智己・吉村界人)が暗躍する「スモーキング」。あら? すべてテレ東だった。そもそもテレ東は「他局がやらん題材をひんしゅく覚悟であえてやる」マインドがあったしね。深夜のメシテロよりも暗殺が好物だったはずなのよ。

 そんな殺し屋大好きテレ東が復調し、好評のシリーズ映画を連ドラに。映画を観て「連ドラ向きでは?」と感じていたので大歓迎。「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」の話である。

 主人公の殺し屋二人組は女子高生だった(映画では)。口は達者で要領もよく、人好きするタイプだが、怒りの沸点は限りなく低く、暴走しがちな杉本ちさと。コミュ障で規律順守も集団行動も苦手だが、卓越した戦闘能力をもつ深川まひろ。事務処理能力と生活能力と常識が欠如した、いわゆる社会不適合のちさまひコンビが、ゆるい日常とシビアな殺し屋稼業のギャップを地続きで魅せる物語である。

 ちさとを演じるのは高石あかり。NHK夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」では、主人公(蒔田彩珠)から煙たがられると同時に憧れられる陽キャの女子を好演。閉塞感を打破したり、枠や型を超える芯の強さを体現する役がしっくり。

 まひろを演じるのはスタントでも活躍する伊澤彩織。キレッキレの超速アクション、腕っぷしの強さには見ほれる(格闘後に「はぁ疲れた」と漏らすのもリアル)。社会人の適性は低いが、アサシンとしては一流のまひろに適役だ。時にけんかもするが、この二人の自然な会話劇を心地よく感じている(人、殺してるけどな)。

 なんか、「女子力」という言葉が思い浮かんだのよね。女子力とは「小奇麗で器用で丁寧な暮らしで、ちゃんとしてる感と面の皮の厚さで世間ウケがいい力」ではなくて、ちさまひのように「多少社会に不適合でもこびたり流されたりせず、任務は果たして、自分の機嫌を取って快適に生きていく力」としたらいいのにな。

 この二人が殺伐&無軌道にならないのは、殺し屋協会所属という設定があるからだ。ちさまひが高校生のときから担当するマネージャー・須佐野(飛永翼)が、一般人としての生活を送れるようサポートしている。任務完了後の死体処理は、仕事きっちり&小言みっちりの田坂(水石亜飛夢〈あとむ〉)と、案外リア充なギャルの宮内(中井友望)が担う。

 今作では協会主導で、伝説の殺し屋・宮原幸雄(本田博太郎)の復帰プロジェクトが催され、ちさまひが意に反して駆り出されることに。手綱を引くのは、草川拓弥が演じるマネージャー・夏目。権威と妄信と集団行動を嫌うちさまひが大暴れするだろう。つうか、殺し屋協会ってのが笑える。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年10月10日号掲載

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