18歳年下の彼女とは「疑似父娘」のはずだった… たった1度の暴走が狂わせた62歳夫の家庭

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紗良さんの過去

 ぶらぶらと駅まで歩いていくと、「女の子の匂い」を感じたと栄介さんは言う。ヘンな意味ではなく、若い女性のもつ香りが鼻孔をくすぐるような気がしたのだそうだ。それは恋愛感情の香りかもしれない。

「若いっていいですよね。翌日、彼女から連絡があって、今日はすっかり元気になったと。明日バイトに入るので、一杯おごりますって。ありがたくお礼を受けることにしました」

 なぜかその日はあまり客が多くなく、栄介さんは紗良さんの個人的な話をじっくり聞くことができた。紗良さんが接客の合間に、やたらと自分の話をしたのだ。

「父親がいなかったんだそうです。彼女が母親に聞いたら、おとうさんは事故で亡くなったという。でも家には仏壇も位牌もなかった。その後、母は実は事故ではなく離婚だったって。でも紗良の戸籍には父の名前もない。母の言うことはめちゃくちゃだった。そして紗良が大学受験に合格したその日、母は自ら命を絶ったというんです。25歳の女性が、そんな過酷な人生を歩んでいたなんて驚きました。彼女は母の残した貯金で学費を払い、20歳になってから自宅を売って、小さな今のマンションを買った。本当はちゃんと就職したほうがいいんだろうけど、若いうちだけでもと好きな芝居に打ち込んでいる、ということを話してくれました」

 紗良さんが栄介さんに父親を感じていたのだろうということは、彼自身も想像がついた。それなら父親役を担ってもいいとさえ思ったそうだ。

“疑似父娘”

 それからは仕事終わりの彼女を送っていったり、たまに食事をともにしたりした。紗良さんは精神的に安定している女性で、彼女がわがままを言うことはまずなかった。「バイト代が出たから、今日は私に奢らせてね」と言ったこともある。

「疑似父娘だったんだと思います。それはそれで均衡が取れていた。僕も自分の下心を意識することなく、娘のように接しました」

 最初で最後のわがままを聞いてと、紗良さんが泣きながら言ったのはときどき会うようになってから1年ほどたったころだった。

「具合の悪い紗良を送っていったとき以外、僕は彼女の部屋に入ったこともなかったんです。ただ、その日、紗良を送っていくと『栄介さん、コーヒー好きでしょ。ものすごくおいしい豆が手に入ったの。飲んで行ってほしいんだ』って。自分の中の“男”は、彼女に対しては制御できると思っていたので気軽に応じました。ものすごくおいしいコーヒーをごちそうになり、彼女の新しい芝居の話も聞いて、そろそろ帰るねと玄関に向かったとき、紗良がいきなり後ろから抱きついてきたんです」

 お願い、1度だけでいいの。絶対に約束を守るからと紗良さんは涙声でささやいた。そんな女性を振り切って帰るほど、彼は冷たくはなかった。だが、彼は紗良さんに恋人がいると感じていた。

「彼は……いいの? と聞いたら、フラれたもんと。そんな夜は寂しいですからね。眠るまで一緒にいるよと言ったら『そうじゃないの。1度でいいから女として見て』と。限界でした」

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