62歳夫が“還暦を過ぎて子供を認知”するまで 夫婦のすれちがいは次女の「しつけ」をめぐって始まった

  • ブックマーク

栄介さんの育った家

 2歳年上の彼女は、どうやら恋愛経験も豊富だったようで、性的にも熟していた。料理も上手で「完全に胃袋とベッドをつかまれた」そうだ。嫉妬深いのが玉に瑕だったが、当時はそれも愛情だと思い込んでいた。

「僕が育った家は商売をしていたので、いわゆるおふくろの味というのをほとんど知らないんですよ。両親は商売にかかりきり、祖父は僕が小さいときに亡くなって、食事は祖母が用意してくれたけど、やるのはごはんを炊くだけ。近所の店から惣菜を買ってきてそれが並ぶ。思い返しても、おふくろがキッチンに立つ姿はほとんど見たことがなかったなあ。別に不満もなかったけど、由佳里はかつお節と昆布でちゃんと出汁をとって味噌汁を作るんですよ。彼女の母親がそういう人だったらしい。しみじみうまいなあと思いましたね」

 結婚してすぐ由佳里さんは妊娠、娘を出産すると仕事を辞めた。仕事が大好きで続けるつもりだったのだが、「子どものかわいさに負けた」と言ったとき、栄介さんはそれもいいかと思ったという。

次女の「しつけ」をめぐり…

 31歳で次女、34歳で息子が生まれ、栄介さんは3人の子のパパとなった。

「由佳里は変わらず僕を愛してくれました。3人も産んだのに、体型もすぐ元に戻すなど、女性としてめちゃくちゃがんばっていた。『あなたにいつまでも女として見てもらいたいの』と言っていましたが、それが僕にはプレッシャーになった。わかってるんですよ、彼女の気持ちは。でももう家族だし、いくら妻ががんばっても、やっぱり優先順位はふたりともパートナーではなく子どもにシフトしていくのが当然でしょ。僕は自分が育った、商家のわさわさした雰囲気がやはり好きだったのかもしれない。オヤジもおふくろも汗まみれで働いていて、『ほら、さっさとごはん食べて』と言われて、買ってきた惣菜でごはんをかっ込んで……という状況が嫌じゃなかった。由佳里はきちんとしすぎていたんですよ。いや、もちろんそれはいいことなんだけど」

 子どもたちのしつけも由佳里さんは教科書通りだった。栄介さんは、いたずら好きの次女のやることがたまらなくかわいかったのだが、由佳里さんは本気で怒った。子どものやることだから、長女のランドセルにバネ仕掛けの人形を仕込んでみたり、弟の歯ブラシにわさびをつけたりする程度のことだったが、妻には我慢できなかったようだ。

「次女のおもしろさをわかってやってほしいと妻には言ったんだけど、エスカレートすると人を傷つける子になると決めつけていて。長女や息子もおもしろがっていたんですが、やはり母親に影響されますね。次女がいたずらするとしらっとした雰囲気が流れるようになっていった」

次ページ:きみのもつ「正義」とは違う視点で…

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。