低迷期にもファンへの感謝を忘れず 引退した「T-岡田」がオリックスに残した何よりの“功績”とは
“あの夜のホームラン”が分岐点だった?
少しだけ、その後の流れを記しておく。
翌2日、オリックスに思いもよらぬアクシデントが襲う。主砲・吉田正尚(現ボストン・レッドソックス)が右手首に死球。右尺骨の骨折で戦線離脱を余儀なくされながら、その後の6戦を4勝2敗で乗り切っている。
ロッテも10月に入ってからの8試合で3勝4敗1分け。10月12日からの、ロッテとの最後の直接対決3連戦は、首位オリックスと2位のロッテとのゲーム差「2.5」で迎えることになった。
結果を先に記せば、オリックスの2敗1分け。その「1分け」は初戦だった。
ロッテ先発の左腕・小島和哉に、7回まで4安打無失点と抑え込まれた。2点をリードしていた8回も、2死一塁まで来た。球数も100球に届いていないこの場面で、迎えた打者は2番・宗佑磨だった。
左対左の対戦でもある。ここを小島が乗り切れば、9回は守護神・益田も控えている。
この勝負どころで、宗が同点の8号2ランを放った。
あの日の9回、T-岡田が打たずに、ロッテがそのまま勝っていれば?
あの日の8回、宗が凡退して、ロッテがそのまま逃げ切っていれば?
この2つの『れば』を、今季の最終成績に組み入れてみた。オリックスは、白星が1つ減り、黒星が2つ増え、引き分けが1つ減る。そうすると「69勝57敗17引き分け」となり、勝率は「.548」。
ロッテは、白星が2つ増え、黒星が1つ減り、引き分けが1つ減る。「69勝56敗18引き分け」となり、勝率は「.552」。
後付けの結果論だと言われるかもしれない。しかし、その星勘定と、その後の戦いぶりを検証すると、T-岡田が放った“あの夜のホームラン”の大きさがよく分かる。
常に忘れなかったファンへの感謝
あれから3年が過ぎた24年9月10日、京セラドーム大阪での現役引退会見。
T-岡田が「最も印象に残った打席は?」と問われたときに答えたのが、この21年9月30日、ロッテ戦で放った“V引き寄せ逆転弾”だった。
「あの年、初めて優勝できて、少しはチームの力になれていたかな、と。印象深い1本ですね」
現役生活19年のうち、3連覇を含めてもAクラスは5シーズンだけ。その長き低迷期にも、T-岡田は常にファンへの感謝を忘れなかった。キャンプ地に詰めかけたファンが、練習後に行列を作る。日が暮れて真っ暗になっても、T‐岡田は一人一人のファンに、丁寧にサインを書き、言葉を交わした。
その姿勢は、後輩たちにも受け継がれている。
宮崎・清武での春季キャンプ。練習が終わると、杉本裕太郎や宗佑磨、宮城大弥らの主力選手たちが帰路につくバスに乗り込む前に、必ずファンの行列の前に立ち、サインや記念撮影に応じる。
そうした地道な積み重ねが、チームが強くなっていくとともに、実を結び出した。
昨季の観客動員194万7453人は、あのイチローが在籍し、マジシャン・仰木彬監督のもと、日本一に輝いた1996年の179万6千人(※当時は実数発表ではなかった)を初めて超えての球団記録だった。
そして今季は、初めて200万人の大台も突破した。
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