イラストコンテストを窮地に追い込む“生成AI”の進化 主催者側は「盗作だけでなく生成AIにも神経を尖らせなければ……」と苦悩

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生成AIは手軽で、安く、早い

 このように、生成AIの騒動が絶えない理由は、ひとえに扱う側に生成AIに対する理解が不足していることが挙げられる。地方自治体の場合は、慢性的に予算不足に陥っており、「手軽で」「安く」「早く」成果物が得られるという理由から、生成AIに頼りたくなる傾向が強いようだ。また、A氏によれば、「地方行政に喰い込みたいコンサル会社が生成AIの利用をアドバイスしていることがあるようです」という。

 また、日本全体で言えることだが、コンテンツ産業が基幹産業だとか、漫画やアニメは日本の文化だと言う割には、それを生み出す漫画家やイラストレーターに対するリスペクトの精神が欠如しているように思う。SNSを見るだけでも、イラストをフリー素材のような感覚で扱い、漫画を無断転載する例がとめどなく存在する。「ネットやアプリの普及で、漫画やイラストが無料で手に入るようになり、お金を払って楽しむものだという感覚が失われているのも原因かもしれません」と、A氏。

 生成AIの技術は、凄まじいスピードで進化している。以前、漫画家の原画のコレクターから、生成AIを使って出力した有名漫画家の“贋作”サイン色紙を見せてもらったことがあるが、まったく判別がつかないほどの出来栄えであった。「生成AIの絵は見抜ける」と言っている人や、生成AIを毛嫌いしている人でも、何の情報もないままでこの絵を見たら「素晴らしい作品だ」と感想を述べるかもしれないと思ったほどである。

早急なルール作りが求められる

 こうしたなかで、コンテストの主催者側はどう対策を打てばいいのか。A氏は、「極論かもしれないが……」と前置きしつつ、「コンテストはいっそのことすべて手描きの応募に限るか、もしくは制作の過程を動画で送るなど、ある程度の対策が講じられる必要があるのでは」と指摘する。

 しかし、審査に手間がかかるため現実的ではなく、今のところ応募者の性善説に頼るしかないというのが実情だという。加えて、募集要項を複雑にしてしまえば、応募者側を委縮させ、才能の芽を摘むことになりかねない。

 企業や自治体は、生成AIとどのように付き合っていくべきなのか。難しい対応が迫られている。また、コンテンツ産業を基幹産業だとするのであれば、政府や業界団体が主導して早急にルール作りを行い、基幹産業の貴重な担い手であるクリエイターたちの保護に努めることは不可欠であろう。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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