イラストコンテストを窮地に追い込む“生成AI”の進化 主催者側は「盗作だけでなく生成AIにも神経を尖らせなければ……」と苦悩
生成AIについて何も知らない
とはいえ、出版社は、著作者の権利やコンプライアンスについて意識が高いほうである。A氏のように、問題意識を持ち、動向を注視している編集者も多い。問題は地方の企業や公共団体である。それらの職員は出版社の編集者のような専門家ではないため、生成AIとはいかなるものなのか知らないケースもある。国内外で生成AIの扱いが問題になっていることについて、完全に無知であることも少なくない。
グラフィックツールを用いたデジタルのイラストと、生成AIのイラストの違いを理解していない人もいる。例えば、筆者が取材したある地方のコンテストの主催者は、デジタルのイラストについて「ボタン一つ押せばできる」と考えていた。「デジタルはアナログと比べたら手抜き」とも言っていた。実際はデジタルも道具が変わっただけで、人の手によって描かれていることに変わりはない。しかし、絵を描いたことがない人の中には「デジタルは簡単」「手抜き」と思い込んでいる人が想像以上に多いのである。
「9月24日には、島根県松江市が、AIを活用してのご当地キャラの制作を中止すると発表しました。これは、来年に松江市が市町村合併20周年となることを記念し、生成AIを使ってキャラを作ろうとしたものですが、ネット上を中心に批判が相次ぎ、制作中止に追い込まれたものです。生成AIを使ったイラストを作成した企業が炎上する騒動は、たびたび起こっています。ところが、地方の行政関係者は問題が起きていることすら知らず、生成AIをイラストのフリー素材の“いらすとや”のような感覚で使おうとするのです」
こう話すA氏によれば、一時期のようなご当地キャラブームは落ち着いたものの、地方自治体で新しいキャラクターを公募したり、イラストコンテストを開催したりすることはいまも珍しくないという。実際、政府による地方創生の取り組みは今後も続くうえ、インバウンドの間にもアニメの舞台を巡る聖地巡礼ブームが起こっていることから、筆者もコンテンツやキャラクターを使った町おこしは盛んになるとみる。しかし、それを進める現場の職員に深い知識がないケースはたびたびあり、トラブルが引き起こされるのではないかと不安視してしまう。
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