拉致議連「初代会長」石破首相に突きつけられる“喫緊の課題” 置き去りにされた“北朝鮮による犯罪”を改めて振り返る

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 自民党の石破茂総裁(67)が第102代内閣総理大臣に就任し、新内閣発足と共に、今月末には衆院選も行われることが決まった。内政、経済、外交、安全保障と様々な課題が山積しているが、喫緊の課題として忘れてはならないのは北朝鮮による拉致問題である。石破首相は超党派議員によって2002年に発足した「拉致議連」の初代会長。総裁選の公約では、拉致問題の解決に向け、「東京と平壌に連絡事務所を設置する」としている。2002年10月15日に5人の被害者が帰国して以降、拉致問題には進展がないが、日本の治安当局は北朝鮮による拉致など、各種のエスピオナージ(スパイ戦)にどう対処してきたのだろうか。

日本の警察が最初に摘発した拉致事件

週刊新潮」(2004年7月1日号)に掲載された「『日朝交渉』裏面史 なぜ『拉致問題』は置き去りにされたか」では、日本警察が北朝鮮による日本人拉致事件を初めて認識したのは、1977年9月19日におきた、ある事件であることが記されている。

〈石川県能登町の宇出津(うしつ)海岸で、警備員だった久米裕さん(当時52歳)が消息を絶った時だ。この事件を警察が把握するのは、いくつかの偶然と警察の不断の努力による〉(以下、引用は上記記事から)

 当時の捜査官をして「これは結果的に日本警察が最初に摘発した北朝鮮工作員による日本人拉致事件となりました」という、「宇出津事件」の概要はこうだ。

〈「石川県警は、当時“朔日(さくじつ)警戒”といって、毎月の月の出ない日に、各部の応援を得て、日本海岸の一斉警戒を実施していました。東京や大阪、名古屋など大都市のナンバーをつけた車を検問し、搭乗者の確認をして、あわせて海岸沿いの民宿や浜辺をパトロールしていたのです。当時、すでに北朝鮮によると思われる不審船から、バースト信号と呼ばれる圧縮信号が送られ、日本へ工作員を不正入国させている実態を掴んでいたからです。この日も、警察庁の通信施設がバースト信号をキャッチし、“KB(コリアン・ボート)情報”という警戒命令が県下に発令されていました」〉

 この検問で、在日朝鮮人が運転し、日本人が同乗している車を石川県警は把握する。その車を追跡調査するため、日本海側で情報収集すると、宇出津の旅館から「二人の宿泊客のうち、一人が戻らない」という110番通報が入る。

 捜査員が急行すると、旅館の女将はいなくなった男性の上着に“久米”というネームが入っていたのを覚えていた。その情報をもとに、捜査員が部屋に踏み混んだ。

〈「“私は最初から一人です”と、とぼけるその男に、“嘘をつくな。久米さんはどこへ行った”と警察がカマをかけて怒鳴ると、この一言で、男は警察に全てを知られていると思い込み、動揺して全面自供することになるのです」〉

 男は建設と金融会社を経営する在日朝鮮人。北朝鮮に残した妹を人質に取られ、国内でスパイ活動をしていたことを自供した。それによると、前月に本国から“45~50歳くらいの日本人独身男性を送りこめ”との指示があった。男の会社に金を借りていたことから面識のあった久米さんを拉致したのだった。

事件は拉致にはならず……

 男の自供に、石川県警はもちろん、報告を受けた警察庁も騒然となる。その理由を当時の警察庁幹部はこう解説している。

〈「この件は、てっきり日本での任務を終えた工作員を北に送り返していたのだろうと思っていたのです。まさか日本人を拉致するなんて、想定外でした。自宅の捜索を行い、雨戸の戸袋の中と、庭の植木の草むらから乱数表と暗号表を発見、押収しました」〉

 しかし、この事案が「拉致事件」として立件されることはなかった。本人の自供と証拠もそろっているのに、上級庁である金沢地検が、略取誘拐(拉致)で起訴しても公判維持ができないと主張したのだ。

「週刊新潮」記事では、当時の金沢地検検事がその事情を明かしている。

〈「誘拐されたといっても、被害者がいないし、さらったとする船もはっきり分らない。本人の供述があると言っても、公判で引っ繰り返す可能性もあった。これは外国人登録法違反しかない、と判断したのです」〉

 結果として、男は罰金を支払っただけで放免されてしまった。この事件処理について、当時の捜査員はこう語っている。

〈「相手は国交のない北朝鮮。社会主義国にシンパシーを感じているマスコミや左翼政党によって面倒なことになる、という懸念が検察に二の足を踏ませたのだと思います」〉

 この事件の2カ月後、新潟県で横田めぐみさん(当時13)が拉致される――。

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