大人向けのドラマを観たいと思ったとき、NHKくらいしか選択肢がなくなってしまった…「団地のふたり」に称賛の声が上がる理由

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番組を支える元TBSマン

 テレパック側の制作統括・八木康夫氏(74)の力だろう。元TBS取締役の八木氏は1980年代から2000年代の同局のドラマを引っ張り、同社退社後もテレパックで制作を続けてきた。数々の俳優と近しい。

 八木氏がTBSで制作したヒットドラマは、田村正和さんが主演の「うちの子にかぎって…」(1984年)、田中美佐子(64)と浜田雅刀(61)が主演の「十年愛」(1992年)など多数。

 小泉の主演で仲村が共演し、吉田氏が脚本を書いた「恋を何年休んでますか」(2001年)も八木氏の作品。小泉は7本も八木作品に出た。

 小林も「誰よりもママを愛す」(2006年)など3本の八木作品に出演している。2人とも八木氏から声が掛かったら、2つ返事で出るだろう。橋爪、名取、由紀、ムロも八木作品に出ている。八木氏はドラマ界の大物なのだ。

 もっとも、「団地のふたり」はあくまでNHKのドラマ。企画を通したのは同局である。このところ同局のドラマは大人の視聴に耐え得る話題作が続く。

 代理出産と命について考えた「燕は戻ってこない」(7月終了)、メッセージ性の強かった異色の連続テレビ小説「虎に翼」(9月終了)、観る側に家族愛と障がいについて問うた「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(9月終了)、精神障がいへの偏見の払拭に努めた「Shrink」(9月終了)。

 単発ドラマも評判高い。まず、生活保護受給世帯で暮らすヤングケアラーの少女を主人公とした「むこう岸」(5月6日)。戦禍を語り継ぐことの大切さを静かに訴えた「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(8月15日)も反響が大きかった。

 これらの作品は良作に違いないが、話題となる背景には民放が大人向けのドラマの制作に熱が入らなくなったこともある。大人向けのドラマを観たいと思ったとき、NHKくらいしか選択肢がなくなってしまったのだ。

 2020年4月から世帯視聴率が使われなくなり、代わりに個人視聴率とコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)が導入されたことが端緒だ。スポンサーがコア世代の視聴者を歓迎するから、ドラマも若い世代にウケそうな作品が圧倒的多数になった。大人向けドラマはNHKの独壇場になっている。

「団地のふたり」は「55歳の物語」でもある。第3回。仲村が演じる春日部とノエチは中学時代、お互いに片思いの相手だったことが分かる。それをこの2人は相手のいる前でベラベラとしゃべる。20代、30代では照れるし、40代でも難しいのではないか。

 第4回。なっちゃんはそばにいたノエチに呼び掛ける。

「あー、字が小さくで読めない! 老眼鏡!」

 ノエチがそっと声を掛けた。

「なっちゃん、これは読めないよ。韓国語だもの」

 それでもなっちゃんは気まずそうではないし、ノエチも笑わない。55歳にとっては日常茶飯事だし、それを2人は淡々と受け止めているからである。

 ノエチもなっちゃんも目立った特徴がなく、ごく普通の人物である分、小泉と小林には高い演技力が求められるが、ベテランの2人には危なげがない。

 小泉は元優等生で気丈なところがあるノエチという人物を自然に見せている。小林は圧巻。いくつになってもノエチのことを大切に思っているなっちゃんを静かに表現している。小泉も小林も小さな演技が続くものの、存在感は大きい。

 放送は第5回まで済んだ。いずれは地上波でも放送される。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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