大人向けのドラマを観たいと思ったとき、NHKくらいしか選択肢がなくなってしまった…「団地のふたり」に称賛の声が上がる理由
日々を愉快に過ごす2人
小泉今日子(58)と小林聡美(59)がダブル主演しているNHK BS、同BSプレミアム4Kの連続ドラマ「団地のふたり」(日曜午後10時)が話題になっている。評価も高く、SNSを見ると、賞賛の声がずらりと並ぶ。人気の理由を読み解く。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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小泉が演じているのは太田野枝。あだ名はノエチで55歳。日本文学を担当する大学の准教授になるはずだったが、教授とのあらぬスキャンダルを流され、帳消しに。今は週1コマの非常勤講師をしている。
独身。29歳で編集者と結婚したものの、3年で離婚。相手が極度のマザコンだったからだ。母親が夫婦の寝室に入り、掃除や模様替えをすることまで許した。
小林の役柄は桜井奈津子。あだ名はなっちゃんで、やっぱり55歳。ノエチとは幼なじみで保育園から中学まで同じ学校だった。
仕事はイラストレーター。以前は売れっ子だったが、絵柄の流行が変わってしまったためか、今はあまり仕事がない。
こちらも独身。ある男性と5年間同居していた過去があるものの、相手はこっそり結婚していた。即座に同居を解消した。
2人はシングルになって生家である夕日野団地に帰ってきた。ノエチは10号棟、なっちゃんは1号棟に住む。団地は住民が減り、老朽化も進んでいるが、2人の友情は変わらない。ノエチはほぼ連日、なっちゃんの家で晩飯を食べるほどである。
こう書くと、侘しい物語と受け取られてしまうかも知れないが、そうではない。2人は過去を嘆いたり、悔いたりせず、日々を愉快に過ごしている。
第1回では、なっちゃんが団地内で1人暮らしをする佐久間絢子(由紀さおり)から網戸の修繕を強引に頼まれる。そこになっちゃんはノエチを巻き込む。時間を奪われて不満タラタラのノエチをなっちゃんはからかう。
「なんか用事あった? デートとか、合コンとか、お見合いとか」
ノエチは悔しそうに本音で答える。
「いつの話をしてんの。今の私が行きたいのは鍼灸とか、整骨院とか、老眼の検査とか」
2人による網戸の修繕は1度きりのはずだったが、その後も他の団地の住民から頼まれると断れず、次々と請け負うようになる。55歳の独身で特に趣味もない2人はあまり忙しくないのだ。2人はポチ袋に入った数千円のご祝儀を楽しみにするようになった。
「幼なじみ物語」でもある
その後も2人は団地のために動く。住民男性から絶大な人気を誇る福田陽子(名取裕子)と小学生の女児・田川春菜(大井怜緒)、佐久間が、団地内で隠れて飼っていた野良猫を救った。
うるさ型の住民・東山徹生(ベンガル)が規則をタテに処分を主張していたのだが、飼い主を見つけたのである。塗装会社を経営しているノエチの兄・厚志(杉本哲太)に育ててもらうことにした。春菜たちはいつでも猫と会えるようになった。
タイトルが「団地のふたり」なので、単なる「団地物語」のようだが、「幼なじみの物語」でもある。第2回、2人にはもう1人の幼なじみ・空ちゃんがいたことが明かされる。3人は仲良しで、いつも一緒にいたが、空ちゃんは小学2年生のときにガンで亡くなってしまった。
3人はやっぱり内緒で猫を飼っていた。ノエチとなっちゃんは入退院を繰り返していた空ちゃんを励まそうと、その猫を抱いてお見舞いに行った。しかし、病院内に猫は持ち込めない。落胆していたところ、そのまま空ちゃんは帰らぬ人になってしまう。
「泣いたね。こんなに泣けるのかと思うくらい泣いた」(ノエチ)
「泣いたね……」(なっちゃん)
このドラマの最大の魅力はエピソードの一つひとつが自分のこと、あるいは自分の近くで起きたことのように感じられるところ。だから、派手さのないエピソードなのに胸を突かれる。
原作は芥川賞作家・藤野千夜氏(62)の同名小説。制作を担当しているのはテレパック。ドラマづくりの名門であり、2021年には「その女、ジルバ」(フジテレビ系)が高い評価を受けた。
脚本も「その女――」の吉田紀子氏(64)。2007年には「Dr.コトー診療所2006」(フジ)の脚本で放送界の栄誉である橋田賞を受けた大御所だ。評判が高いのは当然か。
NHKドラマのギャラは民放の半分程度しか出ない。民放ドラマに主演すると、ギャラは1本150万円から300万円程度だが、NHKは遠く及ばない。助演もそう。ギャラにこだわる俳優は出演してもらうのが難しい。
ところが、このドラマは出演陣がやたら豪華。民放以上に違いない。小泉、小林、ノエチの父親・昌夫役の橋爪功(83)、母親・節子役の丘みつ子(76)、由紀、名取、杉本、春菜の父親・田川賢一の塚本高史(41)、ベンガル、ノエチたちの同級生・春日部靖役の仲村トオル(59)、団地の新住民・森山龍之介役のムロツヨシ(48)。
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