「ウイスキーが、お好きでしょ」誕生のきっかけは急性髄膜炎 杉真理が明かす名曲の秘話

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 1991年の発表から四半世紀近く、あらゆるアーティストによって歌い継がれる「ウイスキーが、お好きでしょ」。ひと節を聴いただけで世界観が容易に想起される名曲を手がけたのが、シンガーソングライターの杉真理(70)だ。曲のルーツには、自身が患った「急性髄膜炎」があったという。

(全2回の第1回)

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ビートルズに憧れ「譜面が読めなくても」

 1966年の6月にザ・ビートルズが初来日し、フィーバーを巻き起こしたのは杉が中学1年生のときだった。存在を知ったのは、小学5年時のこと。福岡に生まれ、東京で過ごしていた少年は、その格好良さもさることながら「譜面が苦手でも曲が書ける」ことに強い憧れを抱いたそうだ。

「彼らの登場で全てが変わった。子どもながらに音楽の仕事をするには音楽の教育を受けていないといけない、と考えていたのに、譜面が読めなくてもいい曲を作り、演奏している。パソコンでいうとOS(基本ソフトウェア)を変えた存在だったんです」

 ビートルズ来日と前後してギターを弾き始めた。当時は手が小さく、複数の弦を押さえる「バレーコード」にも苦労したというが、嬉しい驚きもあった。

「それまで全然モテなかったのに、急に女の子に手紙をもらったりして。そりゃあ勘違いしますよね」

 2014年に「杉真理&フレンズ」名義で出したアルバム「THIS IS POP」で、スターダスト☆レビューの根本要とデュエットした「ミュージシャン行進曲」には「もてたくてなったミュージシャン」とあるが、ある意味、実話だったのだ。

大学に8年 「音楽は辞められない」

 高校で福岡に戻ったあと、慶応大学の理工学部に進学するため、ふたたび東京へ。寝台車でギターを抱えて上京し、軽音楽サークル「リアルマッコイズ」時代にはビートルズのような曲を作りたいと勤しんだ。

「ビートルズの曲は誰でも分かる部分とマニアックな部分が混在していた。例えば『All You Need Is Love』(愛こそはすべて)のサビは誰でも歌えるけど、Aメロは変拍子。そういう部分に惹かれていました」

 サークル内外で結成したバンドには、2学年下の竹内まりやのほか、安部恭弘、青山純らが参加していた。ヤマハポピュラーソングコンテストに参加して知り合った佐野元春とは後にも交流を紡ぐことになった。ただ、コンテストで結果は出なかった。

「ある程度までは行っても、賞は獲れなくて。君の音楽は日本では受けない、とも言われてね。これでは音楽は辞められないなと思った。受けないなら自分をもっと突き詰めて形にしたいと考えていました」

 サークル仲間の卒業や就職を横目に、杉は大学に8年間在籍し、結局、卒業しなかった。サークル外の仲間をサポートメンバーに、実質はソロプロジェクトだった「Mari &Red Stripes」でシングル「想い出の渦」、アルバム「MARI & RED STRIPES」を同時発売し、在学中にデビューを果たす。1977年3月25日のことだった。

 プロのスタジオミュージシャンやアレンジャーを使いたい一方で、仲間とともに自分の音楽を形にしたい願望もあり、後者を選ぶ形のデビューだった。メンバーは後にいずれも名を成したが、自身にはぬぐい切れない思いがあった。

「周りの演奏は素晴らしいのに自分を突き詰められていない。デビューできたことは嬉しかったけど、自分の未熟さを感じたんです」

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