「罰則がなくて実効性があるのか」…小池都知事肝いりで全国初「カスハラ防止条例」成立でも囁かれる「仕事やってる感」
客から理不尽な要求や暴言を受けるカスタマー・ハラスメント(カスハラ)の防止条例案が開会中の都議会に提出され、可決された。しかし、今後問題とされそうなのは罰則がないことによるその実効性で――。
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連合東京が支持
カスハラ条例は小池知事が3選出馬するに当たって打ち出した公約の一つで、9月18日の都議会の所信表明では「誰もが等しく豊かな消費生活を営み、働く全ての人が力を存分に発揮できる社会を、東京が先頭に立って切り拓いていく」と述べていた。
条例案は、都内で仕事をする全ての人を対象に、カスハラ防止の基本理念を定めるものだ。顧客だけでなく、就業者や事業者の責務を規定するほか、東京都がカスハラを防止するための指針(ガイドライン)を示すことになっている。これにより、カスハラによる条例が施行されるのは全国初となる。
労働組合の中央組織・連合による2022年の調査では、労働者に直近5年間でカスハラの発生件数に変化があったか聞いたところ、36.9%が「増加した」と回答。増加理由の1位は「格差、コロナ禍など社会の閉塞感などによるストレス」だった。
また、直近3年間で自身が受けたことのあるカスハラは「暴言」が55.3%、「説教など、権威的な態度」が46.7%だった。データ的にもカスハラは深刻な課題であることがうかがえ、東京都は「カスハラの禁止を明示することで、行為の抑止効果を期待する」としている。
実はこの条例案、元々は東京都が経済・労働団体と意見交換する「公労使会議」の部会の中で検討がスタートしたものだ。そのメンバーでもある連合東京はかねてカスハラ対策を重点事項とし、東京都が全国に先駆けて条例を制定するよう求めてきた経緯がある。
連合東京は6月、「日本初のカスハラ防止条例制定に挑んでいる」として小池都知事を支持する談話を発表。7月の都知事選では傘下の労働団体がポスター張りを担うなど、組織が小池氏の選挙活動を実質的に支えている。
どのような行為がカスハラに当たるのか
そうした経緯もあり、カスハラ防止という観点では、小池都知事を支える自民党と都民ファーストの会、公明党はもちろん、小池都知事と距離がある立憲民主党も賛同し、条例案の成立には何のハードルもない状況だった。
ただ、この条例案にはどのように実効性を持たせるか、という課題もある。
小池都知事は以前、肝いりで受動喫煙防止条例をつくった(2020年施行)。こちらは違反者に対し、喫煙の中止などを命令でき、違反者に対する罰則として過料も定めていた。
これに対し、カスハラ防止条例案には罰則規定を設けておらず、東京都の指針や業界団体のマニュアルがその運用を左右する立て付けになっている。指針には、代表的なカスハラ行為の類型を記載することになるが、具体的にどのような行為がカスハラに当たるのか、消費者の正当な要求やクレームなどとの線引きも簡単ではない。業種や業態によって接客の慣習は様々で、その定義は悩ましい問題だ。
条例案に対するパブリックコメントでは、「何でもカスハラ扱いされるのでは」という不安も聞かれた。顧客が商品・サービスに意見することを委縮させかねない、というわけだ。
小池知事の3期目の公約では、カスハラ防止条例のほかにも、「年収の壁」対策などを念頭に置いた女性活躍の推進に向けた条例を制定する方針だ。具体的なスケジュールは未定だが、東京都では有識者会議が設置され、検討が始まっている。こちらも小池知事肝いりである。
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