岸田文雄氏は「ただ総理になりたかった人」 あっさり出馬を諦めたワケを邪推してみた(中川淳一郎)

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 岸田文雄氏があっさり自由民主党の総裁選出馬を諦めたため、今回は9人もの候補者が乱立。まだ67歳なだけに、次も狙うのかと思ったらすんなりやめてしまい拍子抜けでした。これまでの自民党の総理経験者って「なんとしても長く総理大臣をやってやる! 歴史に名を残してやる!」的なギラギラした人が多かったんですよ。今回の候補者たちもそんなタイプが多いように見えました。

 岸田氏が成し遂げたことって何だったんだろうか、と思うと2022年初頭にコロナ対応を各国が終わらせる中、かたくなに鎖国と感染対策を続け、「まだ危険だ」と言いワクチン接種につなげようとしたことがまず一つ。あとはG7の方針に従ってウクライナ支援に多額のカネを払ったこと。失言は少ないし悪代官顔ではなくシュッとしたイケメンのため、たたきようがなかった珍しい総理でしたね。

「政治とカネ」で支持率は激減したものの、岸田氏自身はクリーンな印象が強かったため、あくまでも「岸田内閣」が支持されなくなっただけ。岸田氏が長く総理をやりたかったのであれば、小泉純一郎氏が郵政民営化選挙でやったことをマネすれば案外歴史に名を残せたのでは、とも思います。

「政治とカネに汚い議員は自民党にはいらない! 自民党をぶっ壊す。全国の各選挙区の有力者や知事、出身著名人に働きかけ、『刺客』を送る! クリーンな政治、国民主導の政治をするため解散する!」

 こんなことを言ったら拍手喝采だったのではないか。しかしそれをやらなかった。結局今思うと特に成し遂げたいことがあったというより、「総理になりたかった人物」ということなのかな、なんて邪推してしまう。よく若者が言うじゃないですか。「起業したいんですよ~」と。「何をそこで成し遂げるの?」「いや、とにかく起業し、そこから考えます」みたいな感じ。

 あと、岸田氏はアメリカ様に非常に忠誠を尽くしましたが、親分のバイデン氏がトランプ氏に負けそうだ、といった感触もあり「さすがにオレ、こんな猛獣を安倍さんみたいにうまく扱えないわ」などと考えたのでは、とこれも邪推する。外務大臣時代、トランプ氏のことはよく見ていたでしょうし。

 ならば岸田氏が誰に似ていたかといえば、福田康夫氏です。安倍氏が突如辞任し、元官房長官から総理になったもののどこか福田氏は冷めていた。しかし、退陣会見では違った。記者からの「退陣会見がひとごとのように聞こえる」という感想に対して語気を強めて「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです!」と述べた。この発言はネットで流行語になりました。

 岸田氏も感情をあまり出さない総理でしたが、退陣の時はいら立つ質問が来たら「あなた、総理の仕事やってから言いませんか、エッ! 選挙で何度も勝って、閣僚を経験し、総裁選でも勝ってやっとなれる職種なんですよ! あなたとは違うんです!」なんて言ってもらいたかったです。

 それにしても岸田氏、喋り方と声が「間違いない」の芸で知られる長井秀和氏にソックリじゃないですか? 国会答弁を聞いていると長井氏と錯覚してしまいます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年10月3日号掲載

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