「主文だけでも証言台で」…「袴田事件」無罪判決が下された歴史的瞬間 91歳の気丈な姉は、背筋を伸ばして裁判長を見つめた

  • ブックマーク

吉村英三検事の主張を一蹴

3:吉村英三検察官の調書も警察と連携しての捏造

 極め付きは吉村英三検事に対する「嘘」の指摘だ。原審では警察と検察の調書45通のうち44通が証拠排除された。その中で唯一採用された1通である吉村英三検察官の調書について、国井裁判長はその信用性を否定し、同検事の「警察から独立した調べだった」との主張を一蹴した。

「袴田さんが自白するまで、警察署で警察官と交代しながら証拠の客観的状況に反する虚偽の事実を交えて、犯人と決めつける取り調べ」(同)

「警察官との連携により、肉体的・精神的な苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによって作成された」(同)

 犯行着衣は、当初のパジャマから5点の衣類に急遽変更されていた。1967年の一審公判で次回期日は11月と指定されていたのに、吉村検事は9月13日の公判で早々と変更。国井裁判長はこれについて、「端切れに関して巖さんの取り調べもしないうちに変更したのは、実家からの端切れの押収を捜索以前から知っていた」と断じた。

 加えて、二度の再審開始決定時でも触れなかった捏造の動機について、国井裁判長は当初犯行着としていたパジャマでは証拠が弱く敗訴を恐れたからとした。

 一方、DNA鑑定や「クリ小刀では犯行は不可能」「犯人は複数」などとした弁護側の主張は退けた。

「裁判所として本当に申し訳なく思っています」

 国井裁判長は判決理由を述べた後、ひで子さんに「ご説明いたしますのでよろしければ」と再び証言台を促した。耳の遠いひで子さんのため、職員が椅子を国井裁判長に近づけた。

 国井裁判長は5点の衣類と端切れ、調書について、それらの信用性を否定して巌さんを無罪としたことを説明した。そこで「わかりますか?」と尋ねられたひで子さんは「はい」と返答。続けて国井裁判長は「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」と謝罪した。

 そして検察の控訴権を説明した国井裁判長は、「確定するにはもうしばらくお待ちいただきたい。真の自由までもう少し時間がかかりますが、ひで子さんも末永く心身ともに健康であることを願います」などと言葉をかけた。その目は潤んでいた。

次ページ:無罪判決は検察への有罪判決

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。