完成度は「カメ止め」超え 「侍タイムスリッパー」を支えた「時代劇の聖地」と“兼業農家監督”の情熱

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 自主制作映画「侍タイムスリッパー」の上映館が150館に迫ろうとしている。8月17日から始まった一般公開は、当初は池袋シネマ・ロサ(東京・豊島区)、たった1館での上映だったが、完成度の高さからSNSや口コミで情報が拡散。いまや第2の「カメ止め」といわれている。

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 テレビ業界の制作部やドラマ部でも「“サムタイ”見た?」が挨拶代わりになっている――と話すのは民放プロデューサーだ。

「すでに『サムタイ』のいい席はチケットがなかなか取れず、ようやく見ることができました。2018年公開の『カメラを止めるな!』のときを思い出します。あの頃も『“カメ止め”見た?』が合言葉でしたから」

 およそ300万円で制作されたという「カメ止め」は、イベント上映で大きな反響を呼ぶと、18年に新宿K’s cinema(東京・新宿区)と池袋シネマ・ロサの2館で劇場公開がスタートし、最終的には353館で222万人を動員した。

「どちらも大手の配給会社ではない、いわゆるインディーズ映画で、顔は見たことがあっても名前は知らない俳優ばかりというのも一緒です。また、正式公開前に映画賞を受賞していることも共通しています」

「カメ止め」は同年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞した。一方の「サムタイ」も今年、カナダで開催されたファンタジア国際映画祭でアジア映画賞金賞を受賞済みだ。

東映京都撮影所が全面協力

「よく似ていますが、あえて違いを探せば、『カメ止め』は指原莉乃やカンニング竹山ら芸能界のインフルエンサーたちの評判がきっかけとなりましたが、『サムタイ』は一般の方々の口コミからジワジワと広がってきた感じがします。そして、映画としての作りは対照的です。『カメ止め』は手持ちカメラ1台をぶん回し、ほとんどノーカットで素人っぽい荒っぽさと迫力が魅力でしたが、『サムタイ』は計算尽くめの凝った映像で、本当にインディーズなのか?と思わせるほどです」

 それは東映京都撮影所が全面協力した賜物だという。

「しかも、脚本を見た東映京都撮影所のプロデューサーのほうから声をかけてきたというのがすごい。普段なら自主映画で時代劇を撮るのは全力で止めるそうですが、脚本が面白いからと全面的に協力したいと申し出てくれたそうです」

 時は幕末、暗殺を命じられた侍が斬り合いの最中にタイムスリップしたのが、現代の時代劇撮影所だった。現代日本で本物の武士が生き抜くためには何をすべきか、そうだ時代劇の斬られ役になろう……というSFコメディだ。

「それでも作りが安っぽくないから、歴とした時代劇として見られるし、最終的には涙も誘われる。殺陣はもちろん、照明も結髪も衣装も完璧です。東映京都撮影所といえば、最近はテレビドラマの『科捜研の女』(テレビ朝日)や単発の『必殺シリーズ』(ABCテレビ/テレ朝系)くらいしか仕事がありませんが、ここぞとばかりに腕を振るったのでしょう」

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