石破茂新首相の「特急こだま」語りに隠れた「楽しそうな鉄オタ話」以上の深い意図

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石破動画から読み取れるもの

 石破氏がアップしているXの動画には、特急「こだま」に続いて初代東海道新幹線0系の話も出てくる。模型を手にして鉄道を語るなら、鉄道に興味がない視聴者にも訴求できる新幹線だけに話題を絞る方が得策だろう。それでも、あえて石破氏は特急「こだま」にも触れた。そこからは、裏打ちされた鉄道知識と石破氏の鉄道に対する愛着が見え隠れする。

 東海道本線を走った特急「こだま」は、東京―大阪間を約6時間50分で結んだ。それまで東京―大阪の出張は宿泊を伴うことが前提になっていたが、特急「こだま」はビジネス需要の取り込みを狙って“東京―大阪の日帰りも可能に!”という宣伝文句を積極的に使用した。

 実際に特急「こだま」を使っても現地の滞在時間が短すぎるので、日帰り出張は非現実的だろう。それでも国鉄は日帰り出張を前面に打ち出して集客を図った。そこには、国鉄が取り組んできた動力近代化の成果を可視化して広く伝えたいという思惑があったことは否めない。

 特急「こだま」は、1964年に東海道新幹線が開業したことで役目を終えた。「こだま」という愛称は東海道新幹線に引き継がれる。

 東海道新幹線は東京駅―新大阪駅の所要時間を約4時間に短縮し、日帰り出張を現実化させた。これにより、各地に点在していた企業の支店や営業所なども再編・集約されていった。

 その後も国鉄は動力近代化計画の歩を緩めず、1976年に無煙化を達成。これにより、国鉄がスローガンに掲げた“煙のない旅”が実現した。

 石破氏がアップした一連の鉄道動画には、国鉄が戦後から一貫して推進してきた動力近代化という社会構造の変化を読み取ることができる。

今の問題にどう対応するか

 そして、今、日本の鉄道は再び構造転換を迫られている。2020年に新型コロナウイルスの感染拡大を機に、各地を走るローカル線の存廃問題が議論されるようになった。

 以前からローカル線は慢性的な赤字だったが、それを都市圏の鉄道収益で穴埋めしていた。コロナ禍で都市圏の収益も細り、ローカル線の赤字を穴埋めすることが難しくなっているのだ。

 コロナは収束したが、今度は人口減少という問題が持ち上がっている。地方都市は言うまでもなく大都市圏でも人口増への期待が薄い。そのため、赤字路線を廃止することでJR各社は生き残りを模索するしか術がない。

 鉄道の進化は日本が歩んできた昭和のエネルギー史や経済史でもあり、それを認識することは日本が再び経済成長していくうえでも重要になるだろう。鉄道は単なる移動手段なのではなく、社会を左右する政治案件でもある。

 石破氏がどこまで意識していたのかは不明だが、石破氏が公式YouTubeチャンネルやXの動画内で言及した寝台特急「出雲」や特急「こだま」の話は、新首相に就任した今となっては単なる鉄道マニアが昔を懐かしむ、鉄道を楽しく語るという意味だけでは済まされなくなっている。

 今後、地方自治体やローカル鉄道の関係者から石破新首相に救済策を求める声が届けられることになるだろう。知識が豊富だから、誰よりも好きだからといって、必ずしも適正な鉄道政策を打ち出せるわけではない。むしろ、好きや詳しいが足を引っ張ることもある。

 誰もが認める鉄道オタクの新首相の鉄道政策には、温かくも厳しい目が向けられることになる。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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