ロシアが欧州へ「移民」「難民」を大量に送り込んでいる! 日本人記者が国境地点で見た「異様な光景」
国境を守る「竜の歯」
モスクワからベラルーシを経てポーランドへ――こうした移民・難民の大量密入国が意味するものは何なのか。
もちろんロシアもベラルーシも認めることはないが、その意図は「移民兵器」という言葉に集約される。世界中の移民・難民たちを集め、EUに向けて一斉に送り込むことで混乱を引き起こす。「人権尊重」を掲げてきたEUの価値観までもが揺さぶられることとなる。サイバー攻撃や情報戦などと同様、通常の軍事力と組み合わせて実施される「ハイブリッド攻撃」と呼ばれるものの一つである。
バルト3国の一つ、エストニア東部の街ナルバは、川を挟んでロシアのイヴァンゴロドと向き合う。川幅百数十メートルのナルバ川には4車線の橋が架けられている。高台から望遠レンズで橋を見ると、スーツケースを引いて往来する人たちが列をなしていた。だが、車が行き来している気配はない。
橋の中央部に一辺が1メートルほどのピラミッド型の小さなコンクリート製ブロックが約20個設置されていた。それは戦車の侵入を阻む「竜の歯」と呼ばれる軍事用障害物で、鉄条網も巻かれている。
「ピラミッドを置いたのは、われわれがロシアの行動をいかに深刻に受け止めているか見せつけるためです」
橋の上で取材に応じたエストニア国境警備隊東部管区長エリック・プルゲル(34)は強い口調で、「移民攻撃」と呼ぶ事態について説明を始めた。
突然ビザを持たない若い男性たちが……
橋に突然、ビザを持たないイラク人やソマリア人ら若い男性数人が現れたのは昨年10月のことだった。「エストニアに住みたい」などと叫び、難民申請を訴え出た彼らの脇には、ロシア連邦保安局(FSB)に所属する国境警備隊員が緑色の制服姿で付き添っていた。
「FSBが手ほどきをして、集団にときおり指示を出していました。われわれがどう反応するかを探っていたのでしょう」
その後も数回、同様の試みが続いた。ロシア側が撮影機材を設置した直後に集団が現れたこともあったという。
「FSBが関与している以上、国家的脅威です。厳しく対処せざるを得ません」
エストニア側が入国を拒み続けていると「攻撃」はやんだが、今年5月にはエストニア側が川に設置した境界を示すブイ50個の半分をロシア側が一方的に撤去するなど、国境をめぐる神経戦は続いている。
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