ロシアが欧州へ「移民」「難民」を大量に送り込んでいる! 日本人記者が国境地点で見た「異様な光景」

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 排除か、保護か――ロシアから送り込まれる移民・難民がいま、欧州の価値観を大きく揺さぶっている。混迷を深めるロシア・ウクライナ戦争の、新たな“戦場”ともいうべき国境地帯を『移民・難民たちの新世界地図』を著したジャーナリストの村山祐介氏が取材した。

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 2022年2月に始まったロシアの侵攻から2年半余り。今なお激しい戦闘が続くロシア・ウクライナ戦争は、ウクライナのみならず、欧州全体に大きな影響を与えている。

 7月2日から約2週間、私はロシアおよび親ロシア国家ベラルーシと国境を接するポーランド、バルト3国、フィンランドを取材した。そこで見たのは、「要塞化」する欧州の現実だった。

「ここで何をしている!」

 ベラルーシと接するポーランド東部ビャオビエジャ。国境線は「欧州最後の原生林」と呼ばれる森の中にある。7月5日朝、林道に車を止めて国境のフェンスへカメラを向けた私は、すぐに駆け付けた警察車両に制止された。国境から約200メートルの区域が立ち入り禁止になるのは2年ぶりのことである。

 広大な国境の森林地帯から中東出身者ら数千人が突然、ポーランドに密入国を始めたのはウクライナ侵攻前年の2021年夏のことだった。

 ポーランドは欧州域内を自由に移動できるシェンゲン協定の東部境界にあたる。ここを越えればドイツなどへ行けると、SNSを通じて世界中の移民・難民たちに拡散した。だがポーランド政府は非常事態を宣言し、彼らを国境の外へ「プッシュバック」(押し返し)して、高さ5.5メートルの鉄条網付きフェンスを186キロにわたって構築、監視カメラや熱探知システムを整えた。

 ポーランド、ベラルーシ双方から押し返されて森の中で行き場を失う人が相次ぎ、支援団体によると少なくとも82人が遺体で見つかっている。その惨状を描いた映画「人間の境界」(日本で今年5月公開)はポーランドの世論を揺さぶり、昨年12月、右派から中道への政権交代を後押しした。

「組織化された密入国システムが」

 しかし今、再び移民・難民排斥の動きが高まりつつある。きっかけは、若い兵士の死だった。

 ポーランド国境警備隊によると、密入国の試みは雪解けとともに今年4月から急増し、上半期だけで2万件を超えた。出身国はイラクやアフガニスタン、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国など約40カ国に上る。その様子を地区報道官カタジュナ・ズダノビッチは次のように語る。

「ベラルーシから送り込まれる人たちは一層攻撃的になっており、石や枝、割れたガラスを投げてくるなど極めて危険な状況です」

 そんななかでの出来事だった。5月28日、約50人の集団越境を阻止しようとしたポーランド軍の兵士(21)がフェンス越しに刃物で胸を刺されて死亡する事件が起きたのだ。政府はすぐに立ち入り禁止区域を復活させ、反移民を掲げる地元青年らも自警団をつくってパトロールを始めた。

 また、かつては密入国者の多くが「ベラルーシ発」だったが、今や大半が「ロシア発」だという。カタジュナは続ける。

「ほとんどが留学や観光、就労といった合法的なロシアのビザを所持しており、モスクワからベラルーシに連れて来られて密入国地点を指示されています。組織化された密入国システムが出来上がっています」

 森で人命救助に当たるボランティアたちも逆風にさらされている。

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