「オバタリアン」が死語となり、「おじさん」批判も大炎上…間違っても他人を“揶揄”できない「政治的に正しい時代」はどこへ向かうのか

国内 社会

  • ブックマーク

最後の牙城

 今夏のネット炎上の中で最もインパクトがあったのが、フリーアナウンサーの女性がXに「男性の夏場の体臭が苦手」といった趣旨の投稿をした件だ。彼女は制汗剤と汗拭きシートを使ったうえで、一日数回シャワーを浴びているそうで、男性にもそのような対策を施してほしいと述べた。

 この発言がネット上で大きく取り上げられ、“男性差別だ”と炎上。本人は謝罪に追い込まれ、所属事務所からは解雇された。私はネットニュース編集者として長年ネットを見てきた。

 年々、否定的なことや偏見や差別的なことを書いて炎上する対象が少しずつ広がってきているとは言え、男性、しかもおじさんに対する差別だということで、ここまで炎上したのは、非常に稀なことだと思う。

 女性全般は言わずもがな、男性でも子供・高齢者・若者への差別的な発言は許されない。そんな現代であっても、不思議なことに「おじさん」(オヤジ)と「老害(権力を持っていたり傲慢な高齢男性)」に対してだけは、差別的な意見をぶつけたり、バカにしたりしても問題視されないという「最後の牙城」となっていたのだ。しかし、今回の件でその牙城が少し崩れたかもしれない。つまり、おじさんたちの中で長年溜まっていた、「俺たちだけ馬鹿にされても問題にならないという風潮はおかしい」という怒りが、この度ついに許容量を突破し、大爆発を起こしたということだ。

笑い事ではない

 もっとも、この投稿の内容については共感する人は多いだろう。が、内輪で話す分にはまだしも、わざわざ、当のおじさん達も見るであろうSNSに書くことではない。とはいえ、契約解除までに至るとは、いささかやりすぎにも感じるが……。それはさておき、本稿では属性ごとによる配慮や差別のあり様について、改めて振り返ってみたい。

 まずは、金のない若い男性について。2000年代前半頃、「働いたら負けと思っている」という有名なテレビインタビューの画像が反響を呼び、面白がられ、若い男性もいじりの対象になっていた。だが、日本社会の経済環境悪化と格差から2010年代以降は、彼らを面白がる状況ではなくなったのだ。若者の貧困が笑い事ではなくなっていったのである。

 そうした状況の中、2014年の年末に、“炎上事件”が発生した。もうすぐ84歳になると名乗る男性がSNSに以下の投稿をしたのだ。

〈驚いた!1万円のステーキをご馳走になるより、現金三千円を貰いたい若者が多い事実。我々ジジイと話しが合わない筈だ。食に興味が無い?不幸だろ!(中略)淋しい部屋か。イヤイヤ生きている若者が多くなった気はしていた。我々は家族で食ったり食わせたりに熱中した〉

次ページ:女性や高齢者に置き換えたら

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。