「ジョブズはアスペルガーだった」説は迷惑… 精神科医が説く“不利ばかりではない”社会事情

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 自身の「アスペルガー障害」(正式名:自閉症スペクトラム症)を疑い、診察にやって来た27歳の男性会社員。2か月後に出てきた検査結果を見て、精神科医で医学博士の西多昌規氏は「どのように結果を伝えたものか」と思案する。グレーゾーンも多いという「大人の発達障害」。後編では、その症状や現代社会ならではの事情について解説していく。

(前後編の後編)

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※この記事は、『自分の「異常性」に気づかない人たち』(西多昌規著、草思社)の内容をもとに、一部を抜粋/編集してお伝えしています。

「障害」と診断できるほどではないと思います

 診察室に入ってきた森田裕介(27歳男性・仮名)は、特に初診のときと変わった様子はない。相変わらず、視線はなかなか合わせてくれない。

「心理検査はどうでしたか?」

「知能検査のほうは、結構難しかったですね。中学受験のときに、似たような問題を解いた記憶があります。アンケートのほうは、実はネットでもうやったことがあるんです。心理士さんには、黙っていましたが」

 アンケートとは、AQ(編集部註:前編を参照)のことである。ネット情報で患者自身がある程度検査を進めていることも、珍しいことではない。

「さて、結果ですが……」

 これがガンの検査結果の説明であれば、患者も家族も極度の緊張を強いられるであろう。しかし、心理検査の説明は、生命に関わる病気があるかもしれない緊迫感とは、ほど遠いものがある。裕介の表情に、特に新たな緊張感が加わった形跡はうかがえない。

「アスペルガー障害、今の医学ではアスペルガーやそれ以外の自閉症などを総称して自閉症スペクトラム症と言うのですが、その傾向はたしかにあります。平たく言えば『空気が読めない』というのが、それですね。心理検査の結果からも、相手の考えや感情にまで思いが至らない傾向が出ています」

「そうでしょうね」

 やや強ばりがちな表情の中にも、自分の仮説が証明されたことによる満足が顔に出てしまっている。ある意味、正直だ。

「ただ、『障害』と診断できるほどではないと思います」

 顔を出していた満足感が消えて、庭先にいるトカゲのような無表情に戻った。

次ページ:「そういうことをズバッと言うところが、アスペルガーらしいと言うんです」

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